【データから読み解く】国内デジタルID認証・プライバシーテック市場

今回は「国内デジタルID認証・プライバシーテック市場」を取り上げてご紹介いたします。

前回、マイナンバーカード普及状況をとりあげましたが、その後も自主返納増加や、交付枚数の誤集計など様々なトラブルが報道されています。根本的な見直しをしなければ、こうしたトラブルが収束するのは難しそうな状況です。

その一方で、デジタル化時代においては従来の紙ベースの証明書・ハンコではなく、デジタルを用いた本人確認・ＩＤ管理・プライバシー管理が求められてきます。特に、金融サービスなどで新たにアカウントを開設する際に、本人確認資料が必要となりますが、スマホベースでデジタルだけで確認できるツールなどが増えています。顔写真付き運転免許証やマイナンバーカードを写真で複数方向から撮影したデータを送信したり、顔写真を複数方向から撮影したデータを送信したりする手法などがとられています。多少の手間はかかるものの、紙ベースの書類や印鑑の提出に比べると、はるかに利便性が高くなっています。

こうしたデジタルID/認証システムや個人情報に関するプライバシー管理のテクノロジーが徐々に注目が集まっているようです。市場定義や、名称にはいくつかあるようですが、デジタルID/認証ソリューション市場、プライバシーテック市場と称されているようです。

それでは市場は、どの位の規模になっていて、どの位伸びることが想定されているのでしょうか。実際に数字を見て確認したいと思います。

まず、国内デジタルID／認証ソリューション市場を見てみます。2022年に9,231億円でしたが、2027年には1兆4,863億円に拡大することが予想されています。内訳をみると、認証ソリューション（電子申請システム、ICカード本人確認ソリューション、マイナンバーソリューション、決済プラットフォームなど）は5410億円（22年）から9638億円（27年）へと拡大することが予想されています。認証アプライアンス（生体認証ツール、NFC/RFID等ハードウェア認証ツール、認証リーダー/システム）が3220億円（22年）から4501億円（27年）へと拡大することが予想されています。オンライン認証基盤（ID共通管理プラットフォーム、eKYC、電子証明書等）は501億円（22年）から724億円（27年）へと拡大することが予想されています。

次に、プライバシーテック市場の推移を見てみます。この市場には、ソリューション（同意管理、パーソナルデータ管理、インシデント発生時の対応等）の他に、コンサルテーション（弁護士への相談、組織体制の確立、規定類の整備等）を含まれています。2020年には合計で217億円でしたが、以降拡大トレンドで、22年には551億円、28年には2542億円へと拡大することが予想されています。特にソリューションの伸びが大きく、2020年に15億円でしたが、22年に154億円、28年に1698億円へと拡大することが予想されています。

これらのソリューションのうちeKYC（オンラインでの本人確認）市場を見てみます。2020年は22億円でしたが、以降拡大トレンドで22年に67億円、2026年に152億円へと拡大することが予想されています。

eKYCは、2018年11月の犯罪収益移転防止法（犯収法）改正を契機に、金融機関を中心にサービス導入の検討が進み、2020年頃から実際に稼働するケースが増えているようです。ちなみに、マイナンバーカードを使ったeKYCを「公的個人認証サービス（JPKI）」と称しています。

こうしてみると、デジタルID/認証システムや、プライバシーを管理するテクノロジー（プライバシーテック）、オンラインでの本人確認（eKYC）は今後も伸びる市場であることが分かります。こうしたテクノロジーを提供する、スタートアップ企業や、大手IT/テクノロジー企業なども多数参入しています。また、今後は自己主権型の分散型ID（DID：Decentralized Identifier）、デジタル証明書（VC：Verifiable Credential）、トラステッドウェブ（Trusted Web、Webで流通される情報やデータの信頼性を保証する仕組みに関する概念）といった技術や概念などが広まる可能性も高そうです。

マイナンバーカード問題の表面上の問題だけではなく、その背後で動いているテクノロジーや、ID管理の在り方や認証に関する概念・考え方のトレンドと、今後の広がりをウォッチしておく必要がありそうですね。

出典：
富士キメラ総研プレスリリース：『デジタルID／認証ソリューションビジネス市場調査要覧 2022』まとまる
NRI「ITナビゲーター2023年版」
ITRプレスリリース：ITR Market View：アイデンティティ・アクセス管理／個人認証型セキュリティ市場2023