2017年にBBT大学院を修了した中尾豊さんにお話をお伺いします。中尾さんは株式会社カケハシ代表取締役社長として、医療関連サービスの事業を展開されています。今回の対談では起業のきっかけや今後の展望、そこにBBT大学院での学びがどう関わっているか等、幅広くお話をお伺いしています。インタビュアーは株式会社Aoba-BBT代表取締役の柴田巌が務めます。
※こちらの記事はYouTube「BBT ビジネスチャンネル」にて公開中の対談を特別に記事化したものです。
柴田:中尾さんは、2023年1月のForbes JAPANで「日本の起業家ランキング2023」の8位に選ばれた、いま日本を代表する起業家のお一人です。まず、御社の事業概要についてお聞かせいただけますか。
中尾:株式会社カケハシは、2016年3月に創業したスタートアップ企業です。「日本の医療体験を、しなやかに」をミッションとして掲げ、医療関連サービスを開発・提供しています。
柴田:いま従業員の方は何人いらっしゃるのですか?
中尾:正社員が300人ほど、グループ全体で500人ぐらいです。(2023年2月時点)
柴田:大きな組織ですが、経営者、創業者の考え方やビジョンを社員の方にどう伝えているのですか?
中尾:入社した社員には必ず1回は自分が面談すると決めています。入社後に集まってもらい、好きなことを質問してもらうようにしています。代表取締役社長という立場で接するとちょっと身構えられてしまうので、「週末バスケしたんですよ、しんどかったですわー」とか、そんな話からスタートしてカジュアルに話ができる空気感を意識して作っています。
社会課題を解決したい方たちが集まっているのが弊社の特徴です。自分の作るプロダクトが誰かのためになるような仕事がしたいという方が多いです。元々のバックグラウンドが全く違う方も、きちんと思いを伝えると共感してくれて、ぜひチャレンジしてみたいと言ってくださるのが嬉しいですね。
柴田:そもそも、なぜBBTで学ぼうと思われたのですか?
中尾:僕自身のスキル不足を補うためにオンラインで勉強できるところを探していて、知人から紹介されたのがBBTでした。医薬品業界のMRとして勤務する中で得られた医療現場での経験や医薬品の知識を生かしつつ、経営や営業、マーケティングといった幅広いビジネススキルを大学院で学ぶことで、より世の中の課題を解決できる力を身に着けたいと思い、2014年の9月に入学しました。
柴田:実際に入学して学び、働きながら学んでみていかがでしたか?
中尾:まず、一緒に勉強する仲間のおかげで視野が広がりました。マーケティングやファイナンス、M&Aなどのスペシャリストなど、様々なバックグラウンドを持つ仲間の話はとても勉強になりましたね。次に、授業。視座高く社会に貢献する方法を学ぶ授業はとても刺激的でした。たとえば、RTOCS(註1)では、毎週ある会社の社長になって事業展開を考えるのですが、商品価値の寿命を考えながら意思決定をする等、経営判断の良い訓練になったと思います。
柴田:振り返って、BBTでの学びで印象に残っているものは何ですか?
中尾:前に踏み出すためのきっかけと、考え方を得られたのが大きかったです。正直に言うと、創業時は起業経験もない人間が、その思いだけでやっていけるものなのかととにかく不安でしたし、悩みました。しかし、授業を受ける中で志高く行動しようと決め、結果として「あ、こういう人達と一緒ならもしかしたら頑張れるかも?」と思えるような共同創業者に出会えました。
柴田:在学中に起業されましたが、当時描いていた2023年の未来像と現在地点を比較してみて、ほぼ思い描いた通りになっていますか?
中尾:計画はあくまで計画でした、という感覚に近いですね。方向性が決まった大きなきっかけは、2015年10月23日に厚生労働省から発表された、薬局業界へのメッセージです。今のAという仕事ではなくて、Bの方向へ行った方が良いのではないかという業界の新潮流が生まれた瞬間でした。そこで、創業時には医師、薬剤師などの医療事業者、さらに医療事業者へサービスを提供している企業にも全国的なヒアリングを行い、どのような事業が成功するのか、また社会をより良くできるのかという視点から徹底的に調査・分析した上で、事業モデルを組みました。
現時点においては、比較的大手の企業にもご縁をいただくようになったので、事業としては手ごたえを感じていますが、もともとのミッション・ビジョンの世界観に対してはやっと一合目に立った感覚です。Forbesみたいなカッコいい雑誌に載るような人間でもないし、載るならちゃんと成功してから表紙に載りたいなという気持ちで、まだまだこれからだというのが本音です。
編集者註
註1)「RTOCS(アールトックス)」:「Real Time Online Case Study」の略称で、BBT独自のケーススタディ。答えの出ていない「現在進行形の企業課題」をケースとして扱い、当該企業に関する調査・分析・戦略立案を自ら実施。大前研一学長担当の科目にて、2年間毎週1ケース=合計約100ケースを繰り返し行います。
柴田:2030年には社会保障のインフラを整備したいということですが、ゴールに向けて足りないもの、ボトルネックになるのは何だと感じていますか?
中尾:医療は社会保障費の領域に入ってくるので、ルールや報酬制度が変われば事業も影響を受けます。報酬制度に関しては、組織感情が生まれて初めて全体が動くということが往々にしてあります。そのため、業界内に「こっちのほうがいいよね」という空気感をどのように醸成するかということが、事業や社会の変化のスピードにとても影響を与えると考えています。私自身も限定した働き方ではなく、どうすればできるだけ多くの方にとってプラスになる感情や潮流を作れるのかという点を、常に考えながら生きています。
柴田:2030年の先はどんなビジョンをお持ちですか?
中尾:ビジョンはあまり変わらないと思いますが、そこまでの道のりは大きく変わっていくだろうという感覚はあります。おそらく重要なのは、アジリティの高さ。いまこの瞬間、何が課題で何を解決するべきなのかを見極めて、素早く方向転換できる組織を作っておくことが重要なのではないかと思っています。
柴田:BBTで学ぼうかどうか迷っている当時のご自分に、今タイムマシンに乗ってタイムスリップして、その当時のご自分に声をかけてあげるとすれば、どんな声をかけてあげますか?
中尾:これは言っていいのかわからないですが、実は願書の提出日が過ぎていたんですね。しかし、絶対いま勉強したいと思ったので「期日が過ぎているんですが、願書を提出させてください」という懇願の電話をしました。すると受け付けていただいて。思いのままに行動して良かったと思っているので「そのまま行きなさい」と声をかけると思います。
柴田:入学を検討している方にメッセージをお願いします。
中尾:一番大切なことは、ご自身の「幸せ」の定義付けです。自分にとっての「幸せ」とは何かが定まると、自然と「やりたいこと」に対して腹落ちするので、行動力と説得力が生まれ、多くの人たちから協力を得られるような環境を作りやすくなります。自分が本当に「やりたいこと」を整理し、行動した先の未来を想像して、もしもワクワクするならば、ぜひチャレンジしていただきたいです。
柴田:本日は株式会社カケハシ代表取締役社長の中尾豊さんをお招きしてお話をお聞きいたしました。中尾さん、どうもありがとうございました。
中尾:ありがとうございました。
医療従事者の家系で生まれ育ち、武田薬品工業株式会社に入社。2016年3月に株式会社カケハシを創業。経済産業省主催のジャパン・ヘルスケアビジネスコンテストやB Dash Ventures主催のB Dash Campなどで優勝。2017年3月ビジネス・ブレークスルー大学大学院 修了。内閣府主催の未来投資会議 産官協議会「次世代ヘルスケア」に有識者として招聘。東京薬科大学 薬学部 客員准教授(2022年〜)。厚生労働省「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」に有識者として招聘。Forbes JAPAN「日本の起業家ランキング2023」 8位に選出。新潟薬科大学 客員准教授(2023年〜)。
2017年にBBT大学院を修了した中尾豊さんにお話をお伺いします。中尾さんは株式会社カケハシ代表取締役社長として、医療関連サービスの事業を展開されています。今回の対談では起業のきっかけや今後の展望、そこにBBT大学院での学びがどう関わっているか等、幅広くお話をお伺いしています。インタビュアーは株式会社Aoba-BBT代表取締役の柴田巌が務めます。
※こちらの記事はYouTube「BBT ビジネスチャンネル」にて公開中の対談を特別に記事化したものです。
柴田:中尾さんは、2023年1月のForbes JAPANで「日本の起業家ランキング2023」の8位に選ばれた、いま日本を代表する起業家のお一人です。まず、御社の事業概要についてお聞かせいただけますか。
中尾:株式会社カケハシは、2016年3月に創業したスタートアップ企業です。「日本の医療体験を、しなやかに」をミッションとして掲げ、医療関連サービスを開発・提供しています。
柴田:いま従業員の方は何人いらっしゃるのですか?
中尾:正社員が300人ほど、グループ全体で500人ぐらいです。(2023年2月時点)
柴田:大きな組織ですが、経営者、創業者の考え方やビジョンを社員の方にどう伝えているのですか?
中尾:入社した社員には必ず1回は自分が面談すると決めています。入社後に集まってもらい、好きなことを質問してもらうようにしています。代表取締役社長という立場で接するとちょっと身構えられてしまうので、「週末バスケしたんですよ、しんどかったですわー」とか、そんな話からスタートしてカジュアルに話ができる空気感を意識して作っています。
社会課題を解決したい方たちが集まっているのが弊社の特徴です。自分の作るプロダクトが誰かのためになるような仕事がしたいという方が多いです。元々のバックグラウンドが全く違う方も、きちんと思いを伝えると共感してくれて、ぜひチャレンジしてみたいと言ってくださるのが嬉しいですね。
柴田:そもそも、なぜBBTで学ぼうと思われたのですか?
中尾:僕自身のスキル不足を補うためにオンラインで勉強できるところを探していて、知人から紹介されたのがBBTでした。医薬品業界のMRとして勤務する中で得られた医療現場での経験や医薬品の知識を生かしつつ、経営や営業、マーケティングといった幅広いビジネススキルを大学院で学ぶことで、より世の中の課題を解決できる力を身に着けたいと思い、2014年の9月に入学しました。
柴田:実際に入学して学び、働きながら学んでみていかがでしたか?
中尾:まず、一緒に勉強する仲間のおかげで視野が広がりました。マーケティングやファイナンス、M&Aなどのスペシャリストなど、様々なバックグラウンドを持つ仲間の話はとても勉強になりましたね。次に、授業。視座高く社会に貢献する方法を学ぶ授業はとても刺激的でした。たとえば、RTOCS(註1)では、毎週ある会社の社長になって事業展開を考えるのですが、商品価値の寿命を考えながら意思決定をする等、経営判断の良い訓練になったと思います。
柴田:振り返って、BBTでの学びで印象に残っているものは何ですか?
中尾:前に踏み出すためのきっかけと、考え方を得られたのが大きかったです。正直に言うと、創業時は起業経験もない人間が、その思いだけでやっていけるものなのかととにかく不安でしたし、悩みました。しかし、授業を受ける中で志高く行動しようと決め、結果として「あ、こういう人達と一緒ならもしかしたら頑張れるかも?」と思えるような共同創業者に出会えました。
柴田:在学中に起業されましたが、当時描いていた2023年の未来像と現在地点を比較してみて、ほぼ思い描いた通りになっていますか?
中尾:計画はあくまで計画でした、という感覚に近いですね。方向性が決まった大きなきっかけは、2015年10月23日に厚生労働省から発表された、薬局業界へのメッセージです。今のAという仕事ではなくて、Bの方向へ行った方が良いのではないかという業界の新潮流が生まれた瞬間でした。そこで、創業時には医師、薬剤師などの医療事業者、さらに医療事業者へサービスを提供している企業にも全国的なヒアリングを行い、どのような事業が成功するのか、また社会をより良くできるのかという視点から徹底的に調査・分析した上で、事業モデルを組みました。
現時点においては、比較的大手の企業にもご縁をいただくようになったので、事業としては手ごたえを感じていますが、もともとのミッション・ビジョンの世界観に対してはやっと一合目に立った感覚です。Forbesみたいなカッコいい雑誌に載るような人間でもないし、載るならちゃんと成功してから表紙に載りたいなという気持ちで、まだまだこれからだというのが本音です。
編集者註
註1)「RTOCS(アールトックス)」:「Real Time Online Case Study」の略称で、BBT独自のケーススタディ。答えの出ていない「現在進行形の企業課題」をケースとして扱い、当該企業に関する調査・分析・戦略立案を自ら実施。大前研一学長担当の科目にて、2年間毎週1ケース=合計約100ケースを繰り返し行います。
柴田:2030年には社会保障のインフラを整備したいということですが、ゴールに向けて足りないもの、ボトルネックになるのは何だと感じていますか?
中尾:医療は社会保障費の領域に入ってくるので、ルールや報酬制度が変われば事業も影響を受けます。報酬制度に関しては、組織感情が生まれて初めて全体が動くということが往々にしてあります。そのため、業界内に「こっちのほうがいいよね」という空気感をどのように醸成するかということが、事業や社会の変化のスピードにとても影響を与えると考えています。私自身も限定した働き方ではなく、どうすればできるだけ多くの方にとってプラスになる感情や潮流を作れるのかという点を、常に考えながら生きています。
柴田:2030年の先はどんなビジョンをお持ちですか?
中尾:ビジョンはあまり変わらないと思いますが、そこまでの道のりは大きく変わっていくだろうという感覚はあります。おそらく重要なのは、アジリティの高さ。いまこの瞬間、何が課題で何を解決するべきなのかを見極めて、素早く方向転換できる組織を作っておくことが重要なのではないかと思っています。
柴田:BBTで学ぼうかどうか迷っている当時のご自分に、今タイムマシンに乗ってタイムスリップして、その当時のご自分に声をかけてあげるとすれば、どんな声をかけてあげますか?
中尾:これは言っていいのかわからないですが、実は願書の提出日が過ぎていたんですね。しかし、絶対いま勉強したいと思ったので「期日が過ぎているんですが、願書を提出させてください」という懇願の電話をしました。すると受け付けていただいて。思いのままに行動して良かったと思っているので「そのまま行きなさい」と声をかけると思います。
柴田:入学を検討している方にメッセージをお願いします。
中尾:一番大切なことは、ご自身の「幸せ」の定義付けです。自分にとっての「幸せ」とは何かが定まると、自然と「やりたいこと」に対して腹落ちするので、行動力と説得力が生まれ、多くの人たちから協力を得られるような環境を作りやすくなります。自分が本当に「やりたいこと」を整理し、行動した先の未来を想像して、もしもワクワクするならば、ぜひチャレンジしていただきたいです。
柴田:本日は株式会社カケハシ代表取締役社長の中尾豊さんをお招きしてお話をお聞きいたしました。中尾さん、どうもありがとうございました。
中尾:ありがとうございました。
医療従事者の家系で生まれ育ち、武田薬品工業株式会社に入社。2016年3月に株式会社カケハシを創業。経済産業省主催のジャパン・ヘルスケアビジネスコンテストやB Dash Ventures主催のB Dash Campなどで優勝。2017年3月ビジネス・ブレークスルー大学大学院 修了。内閣府主催の未来投資会議 産官協議会「次世代ヘルスケア」に有識者として招聘。東京薬科大学 薬学部 客員准教授(2022年〜)。厚生労働省「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」に有識者として招聘。Forbes JAPAN「日本の起業家ランキング2023」 8位に選出。新潟薬科大学 客員准教授(2023年〜)。