kunisaki BBT MBA alumni

修了生対談企画 第五弾!

2015年にBBT大学院を修了した國崎 嘉人さんにお話をお伺いします。國崎 嘉人さんは、株式会社イシダの社内ベンチャーであるイシダメディカル株式会社の代表取締役として2020年4月に選任されました。その後、イシダメディカルが米国法人ISHIDA MEDICAL LLCを設立し、CEOに就任。さらに、2022年11月に親会社であるイシダが日本精密測器株式会社を買収して100%子会社とし、その代表にも選任され、現在3社の代表を務めています。

今回の対談では起業のきっかけや今後の展望、そこにBBT大学院での学びがどう関わっているか等、幅広くお話をお伺いしています。インタビュアーは株式会社Aoba-BBT代表取締役の柴田巌が務めます。

※こちらの記事はYouTube「BBT ビジネスチャンネル」にて公開中の対談を特別に記事化したものです。

医療メーカーの社内ベンチャーを含め、国内外3企業のトップに就任

 柴田:國崎さんは現在、イシダメディカル株式会社の代表取締役社長で、かつ、米国の子会社と国内で買収された会社の代表取締役も兼任もされていて、3社の社長をしていらっしゃいます。まず、いまどのようなお仕事をされているのか、お聞かせいただけますか

國崎:イシダメディカル株式会社は2020年4月にイシダグループの医療機器メーカーとして設立された会社で、事業内容は病院の自動化、省力化につながるような医療機器を開発、製造、販売です。社長に就任後、イシダメディカルが米国法人イシダメディカルLLCという会社を設立し、そちらのCEOにも就任しました。そして、昨年2022年11月に日本精密測器(医療機器メーカー、パルスオキシメーターを作っている会社)から事業譲渡を受け、その代表に選任されました。現在、事業開発、そして経営管理の仕事に従事しています。

私は1999年から2020年まで、21年間イシダに在籍をし、そのうちの半分を商品企画や新事業の開発に従事していました。2010年頃からはスーパーマーケットのソリューション製品、具体的には電子棚札という、スーパーの棚でPOSシステムと連動して価格を表示する機械を病院に転用するという機会に幸運にも恵まれ、その自社技術を新事業、新分野である医療分野で展開することとなり、現在に至ります。

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柴田:米国法人は、日本でのイシダメディカル社の商品・サービスを米国市場に展開しようということでしょうか。

國崎:はい。イシダメディカルの新しい製品に本当にニーズがあるかを確認すべく、アメリカの著名な医療機関やクリニックにヒアリング、マーケティングリサーチをしたところ、製品のニーズは日本よりもむしろアメリカのほうが大きいという確証を得たので、これはグローバルでチャレンジしようということで、4月に日本の会社を設立して、5月にはもうアメリカの会社を設立していました。

当社の製品の顧客は全身麻酔で手術を受けた患者さんです。全身麻酔をされた方は自分で尿をコントロールできないので、膀胱にカテーテルを入れてウロバックという蓄尿のビニールのバッグを装着し、看護師さんが尿の重さを30分、1時間と決められた時間に手で測ります。当社の製品はその計測を手作業ではなく、自動的に測って量を記録し、カルテにデータを飛ばすというもの。米国は全身麻酔の件数が日本の9倍あり、市場規模が大きいとわかったので、チャレンジしようと考えました。

柴田:買収された日本精密測器はどういった事業をしている会社なのでしょうか?

國崎:この会社は非常に古く、1950年設立の会社です。当時は航空計器やメーター、アナログメーターなどを作っている会社だったのですが、その後、医療機器事業、なかでも血圧計の事業に参入し、現在は血圧計、それからパルスオキシメーター、非接触体温計を製造販売しています。パルスオキシメーターは、コロナ特需の中で、コニカミノルタさんやテルモさんにもOEMをして、自社ブランドも合わせたシェアが35%と、トップシェアの会社に成長しました。

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柴田:イシダメディカルさんの事業と、買収した事業との相乗効果をいかに出していくのかが経営者としての腕の見せ所になるわけですね。

國崎:おっしゃるとおりです。イシダメディカルを設立したときに、私たちはミッションとして2つのことを掲げました。1つ目は、人手不足が続いている医療現場の自動化、省力化をすること。医療従事者の仕事を楽にしたいということ。2つ目は、私たちが作る医療機器で取得できる患者さんのバイタルデータを利活用して、世界中の人の健康に役立てるということ。例えば、先ほどお話しした全身麻酔をされた方の尿量を自動測定する機器では、看護師さんの負担を減らしながら、尿量という貴重なバイタルデータをデータを利活用できるわけです。

ただ、この事業を大きくしていこうとすると、やはりコア・コンピタンスである技術がメーカーとしては必要になります。そこで、日本精密測器の持つ技術に着目しました。血圧測定の技術やパルスオキシメーターに使用している光の技術などに極めて強く心を動かされて、仲間に取り込めば私たちのビジョン・ミッションを実現することに役立つだろうと考えて買収に至りました。

柴田:3社の経営、それも米国と日本ということで、平均的な代表取締役、経営者像よりも、はるかにチャレンジングなお仕事をしてらっしゃいますが、社長として、あるいは経営者として、一番大切にしていらっしゃるモットーは何でしょうか

國崎:自分でミッションやビジョンのような確固たる信念を持つことは、絶対に必要だと思います。それに基づいて仲間やフォロワーの方々が動いてくれますので。やりたい方向性を持ち、しっかりとブラさずに伝えること。極めて簡単な言葉にして、フォローしやすいような形にして伝えることを常に心がけています。役員、従業員だけではなく、支援してくださる株主に対して、あるいは、グループ会社、横、縦、全方位でそうした伝える力が必要だと思いますね。

卒業研究で事業計画を作成し実現、MBAでの学びと仲間がなければ今の自分はいない

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柴田:BBT大学院に入学されたのが今から約10年前ですが、BBTでの学びは現在にどう影響していますか

國崎:間違いなく影響していると言えます。2010年頃から新事業に参入するということで、いろいろ小さくチャレンジしてきましたが、新事業あるいは新分野となると、行き詰まったときに聞ける先生がいないわけです。そんなときにどう打ち手を打っていくか。そこに悩みを感じて、2013年にBBT大学院に入学することになりました。

大学院では、自分が実現したかった外来患者案内システムという製品を卒業研究(註1)のテーマにして事業計画書を作成在学中に会社に企画を上げて、卒業後に製品化しました。このように、最初の製品は学んだ後ではなく学びながら作り上げたものだったわけですが、今では国内15病院に導入されて、非常に支持されています。

柴田:素晴らしいですね。そういった中で、シンプルに伝える、強く深く伝えるということの重要性を痛感されたのでしょうか。

國崎:はい。イシダのルールでは、商品企画の担当は役員会での説明を求められます。10分ぐらいで製品の概要、企画から投資回収の見通し、販売計画など多くの情報を伝え切らなくてはなりません。そこにどのような情報を盛り込んでいく必要があるかを教えてくれたのはBBTでしたポイントを突く説明を学べたのは非常に良かったと思います。幸運にも、5代目の石田隆英社長がMITのMBAを卒業されていて、こういう考え方が社員にも必要だということで(MBAへの)社員派遣を始めたところでした。私の発表内容が(MBAを経て)変わってきたということは、石田社長も含めて役員には伝わっていたのではないかと思います。

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柴田:在学中の学びや学生生活で特に印象に残っている、また、記憶に残っているエピソードなどあれば、1つお聞かせいただけますでしょうか。

國崎:やはり、事業計画でしょうか。本当にみんなで七転八倒しましたね。テーマの設定から最終的な結論出しまで、どういうふうにまとめようかとか、こういう内容だったらいいんだろうかとかいうことを同級生同士でかなり頻繁に集まって議論しました温泉旅館で合宿をやったこともあります。「その内容だと全然刺さらないよ」などと言い合って。テーマの設定で何度も修正を余儀なくされている人もいましたし、自分がやろうとしていることを整理して、全くその事業に関わってない人に説明するにはどうすればいいのかを学べたなと思います。この2年間を通じて本当に良かったのは、仲間とのそういった刺激し合えたこと。もう、そればかりが思い出されます。

BBTは本当に苦しいと思うんです。取り組むのはそんな簡単ではありません。簡単ではないからこそ、残ったメンバーはなんだか戦友みたいなイメージになってくるんですよね。通常のセミナーとか研修とか、いわゆるビジネススクールっていったようなところで、ちょっと知り合いになったっていうような関係性を超えた、同じ釜の飯を食ったというような感じ「あのときつらかった、励ましてやってきたよね」というような結び付きがベースとしてあるので、すごく強いなと思います。

柴田:3社もの会社を同時並行的に経営されるお立場になっても、かつてのクラスメートの方に相談したり意見をもらったりすることはあるのですか

國崎:はい。あります。さまざまなタイミングで仲間と一緒に食事に行って、近況の情報交換をしています。仲間と触れ合って面白いなと思うのは、例えば、元の会社の仲間に「こういうことをやるんだ」と言うと、「よくやるよね、自分にはできないよ、よくやってるよね」というような反応が返ってくるんですが、BBTの仲間に会うと「羨ましい、自分もやりたい。絶対うまくいくよ」という反応なんです。すごく背中を押してくれる。この辺りの捉え方、感覚が全然違うので、それを聞きたいがためにみんなと会うこともあります。

柴田:國崎さんはプレッシャーとか、重圧に負けそうになるようなことはないのでしょうか

國崎:私はBBTでの最大の学びは、「限界突破」というマインドセットの部分だと思っています。BBT時代は、夜の9時、10時まで仕事をして、帰宅してからの1時間を勉強に、仕事に、あるいは家族のために使う。その選択を2年間繰り返して2年で卒業した。これは自分の中で非常に大きな成功体験になりました。だから、3社の代表であれ、5社の代表であれ、自分で自分に限界を決めることなく、自分にはできる、自分を信じれば実現できるんじゃないかなと思えるんです。もちろん経営というのは結果なので、結果を出すことでこれから証明していきたいと思っています。

yoshito kunisaki

柴田:BBTの学びの特徴として、RTOCS (Real Time Online Case Study)(註2)という、毎週1社ずつのケーススタディー、誰も正解は分からない現在進行形の経営課題を取り上げて、自ら答え、ソリューションを考えていく授業がありますが、いかがでしたか?

國崎:私はそのBBTの最大の長所は、このRTOCSの存在だと思っています。というのは、3Cとか5Fフレームワークを知ってる人は多いですが、実際どうやって当てはめていくかというのはなかなか難しいところで訓練が必要だと思うんですね。RTOCSは、学んだフレームワークをいかに現在の経営課題に当てはめて、整理して、将来を予測して、結論を出していくかを2年間、50週にわたって行うので、フレームワークの使い方を身に付けることができます

柴田:1週間に1社ずつのケーススタディーをやっていくのは大変なことだと思いますが、どのようにして乗り切られたのですか

國崎:夜の10時から始まる学長の放送の終わりにお題が出るんですね。そこで、お題が出た瞬間にSPEEDAとか、そういった情報をまず引っ張り出して、パワーポイントに過去30年の業績推移、バランスシートの推移、キャッシュフローの推移などパターンを作ってAirCampus(註3)にバーンと先に投稿します。そうすると、私が投げたものをベースに、みんながそれに対していろいろディスカッションしてくれます。RTOCSで大事なのは、最初の段階でいかにスタートダッシュができるか。そうすると、水、木、金曜日に焦らずに済みました。

柴田:ご卒業された後も、英語の習得などさまざまな自己研鑽をされたと思いますが、いかがですか

國崎:BBTの2年間を卒業してしまうと、とにかく時間がどかんとできるんですねそれまで週に30時間以上も取っていたものが丸々なくなって、この時間を自分のために何か有効活用しないともったいないと思うようになりました。そこで始めたのが英語の勉強です。2015年の段階ではアメリカにチャレンジするとか、そういったことはまだおぼろげでしたが、事業をやるなら海外のパートナーとの会話も必要になるだろうからとにかくちょっと始めてみようと、オンラインの英会話レッスンを始めました。40過ぎてからの英語のチャレンジでしたが、週に3回、4回やっていると、相手の言うことが何となく分かってきて、言いたいことも何となく言えるように。これは、卒業後のチャレンジの成功体験になりましたね。

編集者註

註1)「卒業研究」:2年次に取り組む必修科目。およそ1年かけ、経験豊富な担当教員との面談を交えながら、実戦で価値を生む新規事業計画を立案するカリキュラム。

註2)「RTOCS(アールトックス)」:「Real Time Online Case Study」の略称で、BBT独自のケーススタディ。答えの出ていない「現在進行形の企業課題」をケースとして扱い、当該企業に関する調査・分析・戦略立案を自ら実施。大前研一学長担当の科目にて、2年間毎週1ケース=合計約100ケースを繰り返し行います。

註3)「AirCampus」:地理的な条件や時間など、あらゆる制約を乗り越えるために開発されたオンライン学習プラットフォーム。理解度を高めるために24時間繰り返し視聴することができる珠玉の講義映像、1~2時間などではなく約1週間のスパンで行う”思考を深めるための”テキストディスカッションなど、実践MBAの学びに必要な全ての要素がつまっています。

人生100年時代、1+1=3になるように事業と会社を成長させて社会貢献を続けたい

 柴田:今、経営してらっしゃる事業の将来、未来についてお聞かせください。

國崎:いま関わっている事業は、2015年に私がBBTを卒業し、5代目の石田隆英社長に呼ばれて「自分の世代のうちに新事業の新しい柱をつくりたい。5年後に年間100億円の売上高をつくれる事業プランを作って、半年後の役員会で発表してほしい」と、メンバーを5名もらったところからスタートした事業です。半年後の役員会では「自力成長で20億、M&Aで80億」と報告しました。2015年から2020年までは、とにかくこの自力成長20億をどうやって達成するかという中で、外来患者案内システムや医薬品工場での自動化機械の開発などで、4年間で18.5億まで成長することができ、期限まで1年を残して会社を設立することになりました。「M&Aで80億」という点は、日本精密測器が売上の一分を担って先期47億円となっています。

ということで、またまだここからさらに自力成長を考えていかなければいけないですし、イシダのグループトップが掲げている100億円規模にも、自力成長で行くのか、あるいは、さらにM&Aで行くのかわかりませんが、戦略に沿った動き方をしていく必要があるかと思います。イシダの新事業開発から生まれたイシダメディカルと、創業73年の日本精密測器をうまく合理化して、シナジーを出していくこと。1+1=3にできるようにするのが当面の私の役割かなと考えています。

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柴田:國崎さん個人としての、5年、10年先のビジョンはおありですか

國崎:私の恩師といいますか、事業計画の担当教授だった廣瀬先生が、非常に私の中で印象的です。60歳までいろんな事業会社で頑張るとおっしゃって、60歳を過ぎてから自分で事業を起こして大活躍されて、会社も急成長を遂げられています。私の中ではその廣瀬先生がモデルになっていて、廣瀬先生の本も買いました。私としては、今は親会社が出資した会社の価値を高めていくことに、とにかく60歳までは頑張りたい。その後、もし機会があれば、自分の資本でチャレンジして、事業を大きくしていきたいと思っています。今は人生100年時代ですから、60歳になっても、まだ残り40年もあるわけですよね。ならば、今の役割は長く見積もっても、65歳とか70歳とか、それぐらいで、まだ30年あります。その先も長く世の中に貢献し続けたいと思っていますので、60歳までに今やっていることで成功体験を増やしたり、人脈形成したりしていきたいと考えています

メッセージ

柴田:今、リカレント教育とかリスキリング教育などで、社会人になってから学び直そうと思う方が多くいらっしゃるので、勇気付けられるようなお言葉を一言いただければと思います。

國崎:私にとってBBTは、今任されている医療事業拡大の上で、とても有益なアドバイスをもらったり、必要な人に出会わせてもらったりした場所でした。現在の事業はBBTという土台の上に成り立っていて、BBTで仲間との出会いがなかったら、本当に今がなかったと心から思います学び直しというとどうしても勉強そのものにフォーカスしがちだと思いますが、それはそれで重要ではありますが、そこで出会う仲間がむしろ自分のその後の人生を良いほうに方向付けてくれるということを、私は実体験として体験することができました。BBTにはそれほどの値打ち、価値があります。自分で事業をやりたいという方や私のように会社の派遣で入学したという方、もちろん途中でドロップアウトしてしまった方もいますが、いろんな境遇の方がいらっしゃいます。その方々とご縁を作って、人生をより良い方向に変えていくそういう場を提供してくれるのがBBTだと思いますので、ぜひ検討されている方はチャレンジしてみるべきだと思います。

柴田:本日は國崎嘉人さんをお招きしてお話をお聞きいたしました。國崎さん、どうもありがとうございました。

國崎:ありがとうございました。

國崎嘉人さんプロフィール

1975年生まれ。大学卒業後に株式会社イシダへ入社、営業や商品企画に従事。
2013年4月に37歳でビジネス・ブレークスルー大学大学院へ入学、2015年3月修了。卒業研究で起案した新規事業を社内で実現して大きく売上を伸ばし、2020年イシダメディカル株式会社を設立し代表取締役社長となり、同年設立された米国法人ISHIDA MEDICAL LLCでもCEOを担う。2022年11月からは、株式会社イシダの子会社となった日本精密測器株式会社の代表取締役も兼務し活躍中。

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修了生対談企画 第五弾!

2015年にBBT大学院を修了した國崎 嘉人さんにお話をお伺いします。國崎 嘉人さんは、株式会社イシダの社内ベンチャーであるイシダメディカル株式会社の代表取締役として2020年4月に選任されました。その後、イシダメディカルが米国法人ISHIDA MEDICAL LLCを設立し、CEOに就任。さらに、2022年11月に親会社であるイシダが日本精密測器株式会社を買収して100%子会社とし、その代表にも選任され、現在3社の代表を務めています。

今回の対談では起業のきっかけや今後の展望、そこにBBT大学院での学びがどう関わっているか等、幅広くお話をお伺いしています。インタビュアーは株式会社Aoba-BBT代表取締役の柴田巌が務めます。

※こちらの記事はYouTube「BBT ビジネスチャンネル」にて公開中の対談を特別に記事化したものです。

医療メーカーの社内ベンチャーを含め、国内外3企業のトップに就任

 柴田:國崎さんは現在、イシダメディカル株式会社の代表取締役社長で、かつ、米国の子会社と国内で買収された会社の代表取締役も兼任もされていて、3社の社長をしていらっしゃいます。まず、いまどのようなお仕事をされているのか、お聞かせいただけますか

國崎:イシダメディカル株式会社は2020年4月にイシダグループの医療機器メーカーとして設立された会社で、事業内容は病院の自動化、省力化につながるような医療機器を開発、製造、販売です。社長に就任後、イシダメディカルが米国法人イシダメディカルLLCという会社を設立し、そちらのCEOにも就任しました。そして、昨年2022年11月に日本精密測器(医療機器メーカー、パルスオキシメーターを作っている会社)から事業譲渡を受け、その代表に選任されました。現在、事業開発、そして経営管理の仕事に従事しています。

私は1999年から2020年まで、21年間イシダに在籍をし、そのうちの半分を商品企画や新事業の開発に従事していました。2010年頃からはスーパーマーケットのソリューション製品、具体的には電子棚札という、スーパーの棚でPOSシステムと連動して価格を表示する機械を病院に転用するという機会に幸運にも恵まれ、その自社技術を新事業、新分野である医療分野で展開することとなり、現在に至ります。

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柴田:米国法人は、日本でのイシダメディカル社の商品・サービスを米国市場に展開しようということでしょうか。

國崎:はい。イシダメディカルの新しい製品に本当にニーズがあるかを確認すべく、アメリカの著名な医療機関やクリニックにヒアリング、マーケティングリサーチをしたところ、製品のニーズは日本よりもむしろアメリカのほうが大きいという確証を得たので、これはグローバルでチャレンジしようということで、4月に日本の会社を設立して、5月にはもうアメリカの会社を設立していました。

当社の製品の顧客は全身麻酔で手術を受けた患者さんです。全身麻酔をされた方は自分で尿をコントロールできないので、膀胱にカテーテルを入れてウロバックという蓄尿のビニールのバッグを装着し、看護師さんが尿の重さを30分、1時間と決められた時間に手で測ります。当社の製品はその計測を手作業ではなく、自動的に測って量を記録し、カルテにデータを飛ばすというもの。米国は全身麻酔の件数が日本の9倍あり、市場規模が大きいとわかったので、チャレンジしようと考えました。

柴田:買収された日本精密測器はどういった事業をしている会社なのでしょうか?

國崎:この会社は非常に古く、1950年設立の会社です。当時は航空計器やメーター、アナログメーターなどを作っている会社だったのですが、その後、医療機器事業、なかでも血圧計の事業に参入し、現在は血圧計、それからパルスオキシメーター、非接触体温計を製造販売しています。パルスオキシメーターは、コロナ特需の中で、コニカミノルタさんやテルモさんにもOEMをして、自社ブランドも合わせたシェアが35%と、トップシェアの会社に成長しました。

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柴田:イシダメディカルさんの事業と、買収した事業との相乗効果をいかに出していくのかが経営者としての腕の見せ所になるわけですね。

國崎:おっしゃるとおりです。イシダメディカルを設立したときに、私たちはミッションとして2つのことを掲げました。1つ目は、人手不足が続いている医療現場の自動化、省力化をすること。医療従事者の仕事を楽にしたいということ。2つ目は、私たちが作る医療機器で取得できる患者さんのバイタルデータを利活用して、世界中の人の健康に役立てるということ。例えば、先ほどお話しした全身麻酔をされた方の尿量を自動測定する機器では、看護師さんの負担を減らしながら、尿量という貴重なバイタルデータをデータを利活用できるわけです。

ただ、この事業を大きくしていこうとすると、やはりコア・コンピタンスである技術がメーカーとしては必要になります。そこで、日本精密測器の持つ技術に着目しました。血圧測定の技術やパルスオキシメーターに使用している光の技術などに極めて強く心を動かされて、仲間に取り込めば私たちのビジョン・ミッションを実現することに役立つだろうと考えて買収に至りました。

柴田:3社の経営、それも米国と日本ということで、平均的な代表取締役、経営者像よりも、はるかにチャレンジングなお仕事をしてらっしゃいますが、社長として、あるいは経営者として、一番大切にしていらっしゃるモットーは何でしょうか

國崎:自分でミッションやビジョンのような確固たる信念を持つことは、絶対に必要だと思います。それに基づいて仲間やフォロワーの方々が動いてくれますので。やりたい方向性を持ち、しっかりとブラさずに伝えること。極めて簡単な言葉にして、フォローしやすいような形にして伝えることを常に心がけています。役員、従業員だけではなく、支援してくださる株主に対して、あるいは、グループ会社、横、縦、全方位でそうした伝える力が必要だと思いますね。

卒業研究で事業計画を作成し実現、MBAでの学びと仲間がなければ今の自分はいない

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柴田:BBT大学院に入学されたのが今から約10年前ですが、BBTでの学びは現在にどう影響していますか

國崎:間違いなく影響していると言えます。2010年頃から新事業に参入するということで、いろいろ小さくチャレンジしてきましたが、新事業あるいは新分野となると、行き詰まったときに聞ける先生がいないわけです。そんなときにどう打ち手を打っていくか。そこに悩みを感じて、2013年にBBT大学院に入学することになりました。

大学院では、自分が実現したかった外来患者案内システムという製品を卒業研究(註1)のテーマにして事業計画書を作成在学中に会社に企画を上げて、卒業後に製品化しました。このように、最初の製品は学んだ後ではなく学びながら作り上げたものだったわけですが、今では国内15病院に導入されて、非常に支持されています。

柴田:素晴らしいですね。そういった中で、シンプルに伝える、強く深く伝えるということの重要性を痛感されたのでしょうか。

國崎:はい。イシダのルールでは、商品企画の担当は役員会での説明を求められます。10分ぐらいで製品の概要、企画から投資回収の見通し、販売計画など多くの情報を伝え切らなくてはなりません。そこにどのような情報を盛り込んでいく必要があるかを教えてくれたのはBBTでしたポイントを突く説明を学べたのは非常に良かったと思います。幸運にも、5代目の石田隆英社長がMITのMBAを卒業されていて、こういう考え方が社員にも必要だということで(MBAへの)社員派遣を始めたところでした。私の発表内容が(MBAを経て)変わってきたということは、石田社長も含めて役員には伝わっていたのではないかと思います。

kunisaki BBT MBA alumni

柴田:在学中の学びや学生生活で特に印象に残っている、また、記憶に残っているエピソードなどあれば、1つお聞かせいただけますでしょうか。

國崎:やはり、事業計画でしょうか。本当にみんなで七転八倒しましたね。テーマの設定から最終的な結論出しまで、どういうふうにまとめようかとか、こういう内容だったらいいんだろうかとかいうことを同級生同士でかなり頻繁に集まって議論しました温泉旅館で合宿をやったこともあります。「その内容だと全然刺さらないよ」などと言い合って。テーマの設定で何度も修正を余儀なくされている人もいましたし、自分がやろうとしていることを整理して、全くその事業に関わってない人に説明するにはどうすればいいのかを学べたなと思います。この2年間を通じて本当に良かったのは、仲間とのそういった刺激し合えたこと。もう、そればかりが思い出されます。

BBTは本当に苦しいと思うんです。取り組むのはそんな簡単ではありません。簡単ではないからこそ、残ったメンバーはなんだか戦友みたいなイメージになってくるんですよね。通常のセミナーとか研修とか、いわゆるビジネススクールっていったようなところで、ちょっと知り合いになったっていうような関係性を超えた、同じ釜の飯を食ったというような感じ「あのときつらかった、励ましてやってきたよね」というような結び付きがベースとしてあるので、すごく強いなと思います。

柴田:3社もの会社を同時並行的に経営されるお立場になっても、かつてのクラスメートの方に相談したり意見をもらったりすることはあるのですか

國崎:はい。あります。さまざまなタイミングで仲間と一緒に食事に行って、近況の情報交換をしています。仲間と触れ合って面白いなと思うのは、例えば、元の会社の仲間に「こういうことをやるんだ」と言うと、「よくやるよね、自分にはできないよ、よくやってるよね」というような反応が返ってくるんですが、BBTの仲間に会うと「羨ましい、自分もやりたい。絶対うまくいくよ」という反応なんです。すごく背中を押してくれる。この辺りの捉え方、感覚が全然違うので、それを聞きたいがためにみんなと会うこともあります。

柴田:國崎さんはプレッシャーとか、重圧に負けそうになるようなことはないのでしょうか

國崎:私はBBTでの最大の学びは、「限界突破」というマインドセットの部分だと思っています。BBT時代は、夜の9時、10時まで仕事をして、帰宅してからの1時間を勉強に、仕事に、あるいは家族のために使う。その選択を2年間繰り返して2年で卒業した。これは自分の中で非常に大きな成功体験になりました。だから、3社の代表であれ、5社の代表であれ、自分で自分に限界を決めることなく、自分にはできる、自分を信じれば実現できるんじゃないかなと思えるんです。もちろん経営というのは結果なので、結果を出すことでこれから証明していきたいと思っています。

yoshito kunisaki

柴田:BBTの学びの特徴として、RTOCS (Real Time Online Case Study)(註2)という、毎週1社ずつのケーススタディー、誰も正解は分からない現在進行形の経営課題を取り上げて、自ら答え、ソリューションを考えていく授業がありますが、いかがでしたか?

國崎:私はそのBBTの最大の長所は、このRTOCSの存在だと思っています。というのは、3Cとか5Fフレームワークを知ってる人は多いですが、実際どうやって当てはめていくかというのはなかなか難しいところで訓練が必要だと思うんですね。RTOCSは、学んだフレームワークをいかに現在の経営課題に当てはめて、整理して、将来を予測して、結論を出していくかを2年間、50週にわたって行うので、フレームワークの使い方を身に付けることができます

柴田:1週間に1社ずつのケーススタディーをやっていくのは大変なことだと思いますが、どのようにして乗り切られたのですか

國崎:夜の10時から始まる学長の放送の終わりにお題が出るんですね。そこで、お題が出た瞬間にSPEEDAとか、そういった情報をまず引っ張り出して、パワーポイントに過去30年の業績推移、バランスシートの推移、キャッシュフローの推移などパターンを作ってAirCampus(註3)にバーンと先に投稿します。そうすると、私が投げたものをベースに、みんながそれに対していろいろディスカッションしてくれます。RTOCSで大事なのは、最初の段階でいかにスタートダッシュができるか。そうすると、水、木、金曜日に焦らずに済みました。

柴田:ご卒業された後も、英語の習得などさまざまな自己研鑽をされたと思いますが、いかがですか

國崎:BBTの2年間を卒業してしまうと、とにかく時間がどかんとできるんですねそれまで週に30時間以上も取っていたものが丸々なくなって、この時間を自分のために何か有効活用しないともったいないと思うようになりました。そこで始めたのが英語の勉強です。2015年の段階ではアメリカにチャレンジするとか、そういったことはまだおぼろげでしたが、事業をやるなら海外のパートナーとの会話も必要になるだろうからとにかくちょっと始めてみようと、オンラインの英会話レッスンを始めました。40過ぎてからの英語のチャレンジでしたが、週に3回、4回やっていると、相手の言うことが何となく分かってきて、言いたいことも何となく言えるように。これは、卒業後のチャレンジの成功体験になりましたね。

編集者註

註1)「卒業研究」:2年次に取り組む必修科目。およそ1年かけ、経験豊富な担当教員との面談を交えながら、実戦で価値を生む新規事業計画を立案するカリキュラム。

註2)「RTOCS(アールトックス)」:「Real Time Online Case Study」の略称で、BBT独自のケーススタディ。答えの出ていない「現在進行形の企業課題」をケースとして扱い、当該企業に関する調査・分析・戦略立案を自ら実施。大前研一学長担当の科目にて、2年間毎週1ケース=合計約100ケースを繰り返し行います。

註3)「AirCampus」:地理的な条件や時間など、あらゆる制約を乗り越えるために開発されたオンライン学習プラットフォーム。理解度を高めるために24時間繰り返し視聴することができる珠玉の講義映像、1~2時間などではなく約1週間のスパンで行う”思考を深めるための”テキストディスカッションなど、実践MBAの学びに必要な全ての要素がつまっています。

人生100年時代、1+1=3になるように事業と会社を成長させて社会貢献を続けたい

 柴田:今、経営してらっしゃる事業の将来、未来についてお聞かせください。

國崎:いま関わっている事業は、2015年に私がBBTを卒業し、5代目の石田隆英社長に呼ばれて「自分の世代のうちに新事業の新しい柱をつくりたい。5年後に年間100億円の売上高をつくれる事業プランを作って、半年後の役員会で発表してほしい」と、メンバーを5名もらったところからスタートした事業です。半年後の役員会では「自力成長で20億、M&Aで80億」と報告しました。2015年から2020年までは、とにかくこの自力成長20億をどうやって達成するかという中で、外来患者案内システムや医薬品工場での自動化機械の開発などで、4年間で18.5億まで成長することができ、期限まで1年を残して会社を設立することになりました。「M&Aで80億」という点は、日本精密測器が売上の一分を担って先期47億円となっています。

ということで、またまだここからさらに自力成長を考えていかなければいけないですし、イシダのグループトップが掲げている100億円規模にも、自力成長で行くのか、あるいは、さらにM&Aで行くのかわかりませんが、戦略に沿った動き方をしていく必要があるかと思います。イシダの新事業開発から生まれたイシダメディカルと、創業73年の日本精密測器をうまく合理化して、シナジーを出していくこと。1+1=3にできるようにするのが当面の私の役割かなと考えています。

kunisaki BBT MBA alumni

柴田:國崎さん個人としての、5年、10年先のビジョンはおありですか

國崎:私の恩師といいますか、事業計画の担当教授だった廣瀬先生が、非常に私の中で印象的です。60歳までいろんな事業会社で頑張るとおっしゃって、60歳を過ぎてから自分で事業を起こして大活躍されて、会社も急成長を遂げられています。私の中ではその廣瀬先生がモデルになっていて、廣瀬先生の本も買いました。私としては、今は親会社が出資した会社の価値を高めていくことに、とにかく60歳までは頑張りたい。その後、もし機会があれば、自分の資本でチャレンジして、事業を大きくしていきたいと思っています。今は人生100年時代ですから、60歳になっても、まだ残り40年もあるわけですよね。ならば、今の役割は長く見積もっても、65歳とか70歳とか、それぐらいで、まだ30年あります。その先も長く世の中に貢献し続けたいと思っていますので、60歳までに今やっていることで成功体験を増やしたり、人脈形成したりしていきたいと考えています

メッセージ

柴田:今、リカレント教育とかリスキリング教育などで、社会人になってから学び直そうと思う方が多くいらっしゃるので、勇気付けられるようなお言葉を一言いただければと思います。

國崎:私にとってBBTは、今任されている医療事業拡大の上で、とても有益なアドバイスをもらったり、必要な人に出会わせてもらったりした場所でした。現在の事業はBBTという土台の上に成り立っていて、BBTで仲間との出会いがなかったら、本当に今がなかったと心から思います学び直しというとどうしても勉強そのものにフォーカスしがちだと思いますが、それはそれで重要ではありますが、そこで出会う仲間がむしろ自分のその後の人生を良いほうに方向付けてくれるということを、私は実体験として体験することができました。BBTにはそれほどの値打ち、価値があります。自分で事業をやりたいという方や私のように会社の派遣で入学したという方、もちろん途中でドロップアウトしてしまった方もいますが、いろんな境遇の方がいらっしゃいます。その方々とご縁を作って、人生をより良い方向に変えていくそういう場を提供してくれるのがBBTだと思いますので、ぜひ検討されている方はチャレンジしてみるべきだと思います。

柴田:本日は國崎嘉人さんをお招きしてお話をお聞きいたしました。國崎さん、どうもありがとうございました。

國崎:ありがとうございました。

國崎嘉人さんプロフィール

1975年生まれ。大学卒業後に株式会社イシダへ入社、営業や商品企画に従事。
2013年4月に37歳でビジネス・ブレークスルー大学大学院へ入学、2015年3月修了。卒業研究で起案した新規事業を社内で実現して大きく売上を伸ばし、2020年イシダメディカル株式会社を設立し代表取締役社長となり、同年設立された米国法人ISHIDA MEDICAL LLCでもCEOを担う。2022年11月からは、株式会社イシダの子会社となった日本精密測器株式会社の代表取締役も兼務し活躍中。