大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部
2024年10月に行われた総選挙が終わった週、5㎏入りのコメ「コシヒカリ」や「あきたこまち」は値下がりし、3000円を切る価格帯で再び買えるようになりました。選挙前に行われた、自民党による農家に対する給付金は終わりました。BBT大学大学院学長・大前研一氏が本コラムの前号で予測した通りの結果となりました。日本はコメ不足の心配はそれほどでもないのですが、農業が抱える真の問題は別のところにあると大前学長は指摘します。
主食用米の今後の需要をどう見るか。
2023年産主食用米の生産量は662万tで2024年6月末の民間在庫量は177万tである。2024年の生産量は2023年より22万t多い683万tと、2024年7月〜2025年6月の需要見通しの674万tを上回る。2024年6月の民間在庫量は2023年と同水準の176万tとなり、主食用米の需給は安定傾向となる。
一人当たりの米消費量と人口の減少傾向が続くと仮定すると、2030年には米の需要は612万tまで減少すると全国農業組合中央会は試算する。現在の需要量から約80万t減少することになり、供給が需要を上回る。
日本の農業の真の問題は、本コラムの前号で触れたようなさまざまな特典があっても後継者がいないことである。農家(基幹的農業従事者)の平均年齢は68.7歳(令和5年農業構造動態調査結果)である。人数も毎年5%前後の勢いで減っている。日本の農業はコメ不足ではなく、担い手不足なのである。
農作業は重労働だから敬遠されるのも仕方ないというのは昔の話である。今は機械化が進んで、体力に自信がない人でも十分にできる。機械化で品質も向上する。昔はヘリコプターで農薬を田んぼごと散布していたが、最近は病気になった部分だけをドローンで散布できる。
中には、機械化やデータ活用を進め、効率的に農作業をやる若手(といっても40〜50代)もいる。そうした若手のもとには、農家であり続けたいが今さら機械に投資するつもりもない高齢の農家から「ついでにうちの田んぼもやって」と有償で依頼が殺到する。
父親の農地を継ぐまで東京の大企業で管理職をしていた私の知り合いは、「機械だから他の田んぼもすぐに作業できる。会社員時代と比べて労働時間は5分の1、収入は3倍」と喜んでいた。
このように農業は苦労なく儲かる仕事ではあるが、若い人には田舎暮らしが苦痛らしく、都会へ出て行ってしまう。人手不足になった地域で今農業を支えるのは外国人である。もはや外国人の担い手抜きには日本の農業は成り立たないのだが、問題も多い。
新潟県では、嫁不足に悩む農家にフィリピン人をあっせんするブローカーの存在が問題になった。人身売買まがいのことをするブローカーは問題外だが、外国人の嫁をタダで使い倒せる家庭内労働力としてしか見ていない農家もひどい。なかには、親の介護が終わると離婚して使い捨てにする農家もいるという。そのような人権感覚では、どこの外国人であろうと敬遠される。
技能実習生などで農業に従事する外国人には、日本で農家として人生計画を立てることができる道をもっと開くべきである。低賃金で季節労働させるのは人道的に問題があるし、持続性もない。いつかは農地を買って自分で経営するというキャリアプランを立てることができないと、結局はすぐに離散あるいは帰国してしまうであろう。
現状でも外国人が農地を取得することは可能ではある。しかし農地の取得にはさまざまな規制があり、外国人にはハードルが高い。農業の人手不足を解消したければ、規制緩和して外国人が日本に定着して、オーナーとして農業を続けることができる環境を整える必要がある。それが日本の農業を守る最善の一手なのである。
※この記事は、『プレジデント』誌 2024年11月1日号 および 『大前研一ライブ』#1237 を基に編集したものです。
大前研一
プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。