大前研一(BBT大学大学院 学長)
編集・構成:mbaSwitch事務局 / BBT大学オープンカレッジ問題解決力トレーニングプログラム
今日、日本経済は衰退の一途を辿っています。政府や会社の言うことに従っていれば、持家をもって、ローンを払い終え、子供を学校にやり、定年後は年金を貰ってつつがなく一生を終えられる…。そんな「あなた任せの人生」は、もはや送れない世の中になったという「現実」があります。
高度成長時代なら、欧米という明確な目標がありました。政府にしても企業にしても、自分の頭で考えることなく、欧米というお手本に近づくよう頑張ってさえいればよかった。例えば自動車メーカーであれば、1から10までゼネラルモーターズの真似をしていればよかったのです。
ところが現在は、米国も欧州も含めて「答えのない時代」に突入しています。オリジナリティーがなく、他者の物真似をしているような企業は淘汰されてしまう時代になったのです。それは、個人でも同じことです。上司の言われるままに、何も考えることなく仕事をするサラリーマンは「名札」はあっても「値札」がない、つまり、まったく市場価値のない人物になってしまう時代です。
これからは、他人の真似ではなく、社会という知的ジャングルの中で、道なき道を見つけること(パスファインディング)が必要になったといえます。では、その道なき道を見つけていくために、私たちはどうしたらよいのでしょう?
答えは1つ。それは、考える力を付けることです。「論理力」と「創造力」を持つことです。もっと詳しく言うなら、複雑に絡み合った諸事情の中から、物事のあるいは、直面する問題の実態や本質を的確に捉えて対処していく「問題発見能力」と「問題解決能力」を備えることです。
「そんな難しそうなことを私にできるのか」とお思いになりましたか?大丈夫です。ちょっとした心構えと真摯な気持ちがあれば、誰でも身につけられます。「問題発見能力」「問題解決能力」は決して先天的なものではないのです。かく言う私もこれらの能力を、経営コンサルティング会社であるマッキンゼー&カンパニーに入ってから身につけました。その結果、1日で 150 万円のフィーをもらえるコンサルタントになることができたのです。
私に限らず、IBM のガースナーなど、世界で活躍している経営者たちが皆、持っているのは「問題解決法」という 1つだけの共通の剣です。この能力を身につければ、営業力や企画提案力の強化はもちろんのこと、トップマネジメントの視点から仕事ができるようになります。若くして一つの事業部を任されたり、新しい事業を創造したりすることも可能です。何事においても、大事なのは常日頃からの準備です。チャンスが来てから準備しても間に合いません。世界的な天才指揮者などが好例です。
小澤征爾やヴァント、カラヤンなど、皆大指揮者が倒れて、急遽代役を頼まれてデビューしています。また、タイガー・ウッズも子供の頃、お金がなくてバケツに向かって毎日 400 発ほど打って練習していました。タイガー・ウッズは世界一のプロゴルファーで天才ではありますが、やはりそれに見合うだけの準備をしているわけです。
私は少しでも多くのサラリーマンの方々が、「論理力」と「創造力」に裏付けられた「問題発見能力」「問題解決能力」を備え、21世紀の激烈な世界競争の中で生き残っていけるようになることを願ってやみません。
大前研一
プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。