BBTインサイト 2020年5月14日

ビジネスプロセスマネジメント<第3回>シンプルな体系で定量的な目標を管理する



講師: 山本政樹(株式会社エル・ティー・エス執行役員)
編集/構成:mbaSwitch編集部




ビジネスのアイディアが素晴らしいと、それだけでビジネスが成功すると思われがちですが、実はそうではありません。

ビジネスの成功のために、ビジネスのアイディア(ビジネスモデル)と、ビジネスを実行する力(ビジネスプロセス)の両方が不可欠です。どちらかが欠けてもビジネスは成功しません。ビジネスの実行力を高めるために、組織の目標に向かってビジネスプロセスの変革を実行していくアプローチがビジネスプロセスマネジメントです。

ビジネスプロセスを最適に保つために必要な要素がいくつかありますが、その中から、今回は「目標と実績の管理」をテーマに取り上げます。そのコツを詳しく見ていきましょう。

1.KPIはプロセスの能力を計る指標

全てのプロセスには目的と目標があります。目的から外れることなく、目標に向けてプロセスの能力を高めることがプロセス変革です。

例えば、管理会計プロセスの場合だと目的の例としては、「高精度の業績状況を迅速かつ効率的に提供し、経営者の迅速な意思決定に寄与する」といったものが考えられます。そして、そのためにプロセスはどうあるべきかという目標は、「現状では月次の集計サイクルを、次年度までに日次とする。また、オペレーションコストを次年度までに30%削減する」といったものではどうでしょうか。

目的と目標には明確な違いがあります。
まず、目的は、対象としているプロセスの外部のステークホルダーに対する表現となるため、多くの場合はプロセスの次工程にあるプロセス、もしくは、その担当者にどういった価値を提供しているかという表現を使います。

一方、目標は、目的をより高度に果たすために、自プロセスはどうありたいかという表現になります。ですから、目的は外を意識した表現、目標は内を意識した表現となるわけです。また、目的はそれほど時間軸を問わない普遍的な表現となりますが、多くの目標は達成する時期が明示されています。目標には、「日次」や「30%」といった定量的な指標が出てきますが、この目標をいかに定量的に計るかという際に活用される手法がKPIです。

KPIとは「Key Performance Indicator (s):重要業績指標」の略で、プロセスの能力を計る指標のことです。

2.広い視野で目的や目標を議論しKPIを設定する

プロセスの「改善」や「改革」は、そのプロセスが何の目的に沿って置かれていて、どういう目標を持っているのかということをしっかり理解して行う必要があります。しかし、プロセスの目的や目標がしっかり議論されているケースは多くありません。

例えば、通販の入荷検品という仕事の例を考えてみましょう。
入荷検品は、サプライヤーから届いた商品を検品して不備のあるものを除き、不備のないものを受け入れて倉庫に入庫する仕事です。不備ある商品を受け入れてしまうと、お客様に不備ある商品が届いてしまうので大問題となります。そのために、入荷検品をしていますが、実は、それ以外にも、入荷検品の目的を考えるいくつかの観点があります。

入荷時の不備の見落としは、出荷時に見つかることが多く、そうなると出荷担当者は大変です。自分の出荷作業を中断して不備を報告し、それに変わる商品を持ってこなければなりません。こうなると、出荷の生産性が著しく低下します。入荷検品は、出荷プロセスの整流化に寄与するという目的もあります。また、入荷検品されてからはじめて在庫となり、在庫にならないとお客さんは注文できないので、入荷検品が素早くされないと機会損失が発生します。入荷検品には速やかに出荷可能とすることで機会損失を防ぐという目的もあります。

それ以外にも、色々な目的があります。

こう考えていくと、入荷検品は色々な後工程に影響がある重要な仕事です。
また、入荷検品そのもののコストが上がっても、後工程できちんと仕事が流れるようになれば、全体としてはコストが下がるかもしれません。このような目的に照らし合わせて、入荷検品の目標を定め、目標に対して数値目標を置いたのがKPIです。

さまざまな事例を見ていると、このような目的・目標の議論が不十分なまま、KPIだけが漠然と設定されているケースがあります。これでは人は数値のとらわれてしまって、その仕事の本当の価値を知ることができません。ですから、「後工程にどのような価値を届けているのか」という観点でしっかり目的を議論し、その目的を達成するためにどのような姿でありたいのかという観点で目標を議論し、目標の中で数値で表現するものが適当なものはKPIとして管理指標を定めていく、これが目的・目標・KPIの設定の流れです。

3.KPIは結果指標と行動指標をセットで見ていく

プロセスを管理する上でどのようにKPIを設定したら良いのか、という質問をよく頂きます。
まず、一言でKPIと言ってもKPIにはたくさんの種類があります。

実際にこれらのKPIはごく一部のものであって、例えばマーケティングやコールセンターの世界では、KPIの例が山のようにあります。KPIは、既にあるものからどれにしようかと決めるのではなく、きちんと目的や目標について何が大切なのかを議論して、それをどう数字で表現しようかと考えることが重要です。

KPIには、結果を示すKPIと行動を示すKPIがあり、基本的にセットで見ていくことが望ましい形です。
結果というのは、行動の結果現れる成果を示す指標で、営業における受注率のようなものです。受注率は、最終的にお客様の決定に左右される指標なので、自社で受注率を直接コントロールすることはできません。

一方、自分で意志を持って行動したら変えられるのが行動指標です。顧客の訪問件数のようなものが行動指標になります。行動指標できちんと行動しているかどうかを管理していきますが、行動の結果、きちんと成果が出ているかどうかというのもあわせて管理していきます。

では、KPIの決め方はどうするのかという話になりますが、実は、KPIの決め方は色々あります。今回は、代表的な例を3つほど紹介します。まず、どの教科書にも載っているのが、バランストスコアカードを使う方法です。次にKGIを活用する方法があります。最後は、ボトムアップで決めるという方法です。
それでは、詳しく見ていきましょう。

4.バランストスコアカードでKPIを決める

バランストスコアカード(BSC)は90年代に開発された組織の目標設定、及び、業績評価のシステムです。当時は、売上・利益などの財務視点の業績管理が主流でしたが、BSCは良い業績を出すためには財務以外の観点も必要だと説きました。BSCでは、顧客への価値と、顧客価値を生み出す社内のビジネスプロセスや、ビジネスプロセスの実効性を担保するために必要な組織や従業員の能力開発、意識・文化風土に関することをバランス良く見ていきます。

BSCでKPIを決める際も、同様に4つの視点でKPIを決めていきます。

《BSCでKPIを決める視点》
・「財務の視点」
・財務上のKPIはどういう顧客の視点や顧客の行動から成り立っているのかという「顧客の視点」
・顧客の行動を生み出すためにはどういうビジネスプロセスがあるのかという「内部ビジネスプロスの視点」
・ビジネスプロセスを実行可能なものにするために、どういった基盤を整えなければいけないのかという「学習と成長の視点」

もう少し具体的に見ていきましょう。
あるコンサルティング会社で、新規案件獲得が業績向上のために重要だとします(「財務の視点」)。そのために、「顧客の視点」で見ると、高いお客様満足とリピートしていただけるような仕事をしていく必要があります。そして、それを生み出すために「内部ビジネスプロセスの視点」で見ると、高いサービス品質と魅力的な提案をしていく必要があります。最終的にこれらを生み出すための「学習と成長の視点」で見ると、高いコンサルタントのスキルが必要となります。

このように表現した定性的な目標に対して、KPIの候補を出して、その中からKPIを決めていきます。

ただし、KPIを決めるだけでなく、きちんと行動に移すことが重要です。そのために、第2回で説明したようにKPIを取得するプロセスをしっかり割り当てて、実際の改善活動をしていく対象のプロセスをきちんと認識する必要があります。

目的・目標の議論からKPIを決めて、決めたKPIの実効性を担保するために、プロセスとの紐付けを行う、という順番で進めていきます。

前段でたくさんのKPIを紹介しましたが、実は、BSCの観点でKPIを分類することができます。また、KPIの間にも関係性があります。売上が上がるのは顧客満足度が上がったからであり、顧客満足度が上がるのは、例えばミスが減ったから、という関係性があります。BSCを使った場合、きちんとこのような体系を理解してKPIを決めるということも重要ですが、それ以上に、売上に対しての満足度など、それぞれのKPIの目標値が意味ある形でつながるというのも重要なポイントとなります。

5.KGIとの関係性からKPIを決める

次は、KGIを活用する方法です。先ほどのBSCと同様に、トップダウンでKGIとの関係性からKPIを決めていく方法です。
KGIは、「Key Goal Indicator(s)」の略で、重要目標指標と呼ばれています。組織の一番大きな目標としてKGIが設定され、このKGIを達成するためにどういう指標を見ていかないといけないのかをKPIで管理するという形になります。

分かりやすく言うと、KGIは、組織が組織の外にいる人たちに向かって、自分達はこれを目標にしていますという宣言です。ですから、部門のKGIは経営に対しての約束事になりますし、経営のKGIは株主や市場に対しての約束事になります。外に対しての約束事になるので簡単には変更できず、変更する場合は説明責任が発生します。

一方、KPIはあくまでもKGIを達成するためのツールで、組織の内部を管理していく指標です。そのため、ある程度自由に決めることができます。あるKPIでうまく管理できていないのなら、別のKPIに変えることができます。

例えば、ある食品メーカーの社長が中期経営計画の中で、市場シェアを40%にすると株主に宣言したとします。
これがKGIです。

一方で、会社の中をどう管理して40%にしていけばいいのかを先ほどのBSCに近いような形できちんと観点として分解します。市場に投入する新製品の数を増やす、認知度やリピート率を上げる、など色々な観点がありますが、それぞれにKPIを置くことができます。

6.現場からボトムアップでKPIを設定する

最後は、ボトムアップで設定する方法です。
これまで紹介したBSCとKGIで決めていく方法とは、かなり観点が変わります。本来であれば、組織全体の目標が決まっていて、トップダウンでツリー上にKPIの体系ができるのが望ましい状態です。

しかし、改善活動をする上で、必要な観点を決めてくれる人がいない、また、各部門の利害が一致せずに組織目標が定まらない、ということはよくあります。その際、トップがKPIを決めるまで待つことができれば問題ありませんが、待てない場合もあります。そうなるとボトムアップの出番となり、各現場で何か暫定でもいいので数値目標を決めて、とにかく改善活動に着手します。その改善活動の中で歪みが見えてきたら、きちんと上層部に働きかけて、全体として調整されたKPI、または、KGIを決めていくというのも変革のやり方のひとつのアプローチです。

ただし、このようなボトムアップのやり方は、部分最適に陥ってしまう恐れがありますので、そうならないように配慮が必要です。

例えば、我々が行った事例になりますが、各部門の改善活動を横ぐしで把握する事務局を作って、各部門がどういう観点で改善活動をするのか、どのようなKPIを置いて活動するのかを各部門と議論しながら進めるようにしました。事務局が入ってそれぞれの部門の活動を把握することで、部分最適や意味のない改善活動が行われることを防ぐことができます。

ただ、調整のエネルギーをかなり必要としますので、どこまで現場に任せるのか、どこまで事務局が介入するのか、程度は決めておく必要があります。

7.シンプルな体系で定量的な目標を管理する

ここまで紹介したKPIの設定の方法をまとめたのが以下の図です。

一言で言えば完璧で絶対に正しいKPI設定の方法はありません。

理論的には、BSCを活用したKPIの設定方法は体系的で観点の漏れも防げるので素晴らしいですが、管理にエネルギーがかかる、構造が複雑になりすぎるなど、難しい側面もあります。また、KGIを活用する方法や、ボトムアップで設定する方法も一長一短です。

KPIで大切なことは、定量的な目標をきちんと置いて管理することです。その軸を持ちつつ、考え込みすぎずに、シンプルな体系で、まずは進めて頂ければと思います。

※この記事は、ビジネス・ブレークスルーのコンテンツライブラリ「AirSearch」において、2018年02月16日に配信された『ビジネスプロセスマネジメント 03』を編集したものです


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山本政樹(やまもと まさき)
株式会社エル・ティー・エス執行役員
立命館大学政策科学部卒業後、アクセンチュアにてビジネスプロセスコンサルティングに従事、フリーコンサルタントを経てLTSに入社。
情報システム開発におけるプロセス設計や現場展開、ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)の導入など、ビジネスプロセス変革案件を中心に手掛け、現在はビジネスプロセスマネジメント及びビジネスアナリシスの手法や人材育成に関する啓蒙を中心に活動。

  • <著書>
  • 『サービスサイエンスによる顧客共創型ITビジネス』(共著・翔泳社)
  • 『ビジネスプロセスの教科書』(東洋経済新聞社)など