執筆:川根靖弘(大手コンサルティングファーム勤務、BOND-BBTアルムナイ「豪研会」幹事長)
対象科目:Cross Cultural Business Communication(講師 Krista Mathis)
さて、前項ではチームメンバーの一人ひとりが継続的に役割を全うできるcomfortableな環境作りを実現するリーダーシップ、”サーバント・リーダーシップ”についてお話を致しました。
今回は、互いの違いを認め合いながらチームを前にすすめるために、職場での対人関係や関係構築に大きく影響を与えている文化的規範、所謂“お国柄”について理解を深められる代表的な理論をご紹介したいと思います。
Cross cultural communicationを語るうえで欠かせない理論に、「Hofstede’s cultural dimensions理論」があります。Bond-BBT MBA修了生にとってはおなじみの理論と言えるかもしれません。
これは心理学者のGeert Hofstede博士によって、1967年から1973年までの期間、IBMの従業員へ価値に関する調査を世界規模で実施され、その結果を因子分析することで生み出された理論です。この理論は当初、文化的特徴を表す4つの次元を提案していましたが、その後Michael H. Bond博士とMichael Minkov博士との協力により、5番目と6番目の次元が追加されています。国ごとの文化的特徴を示す6つの次元の概要は下記の通りです。
権力がどこにどのようにあるのかをどの程度意識するか、を表す次元です。
高PDIほどヒエラルキー意識が高く、低PDIほどフラットな関係を好みます。
“出る杭は打たれる”文化なのか、その逆なのかを表す次元です。
高IDVは挑戦を好み、プライバシーを尊重し、低IDVは「調和」を何よりも優先します。
役割や仕事に対して性差の意識をどれほどもっているか、を表す次元です。
高MASは“男らしさ”や“女らしさ”といった所謂伝統的な性差による役割期待が高く、低MASは役割に性差を持ち込みません。
不安定な状況を回避したがる傾向がどれほどあるか、を表す次元です。
高UAIは変化を好まず保守的であり、低UAIは変化や革新に開放的です。
将来的な成功にどれほど重きを置いているか、を表す次元です。高LTOは教育やトレーニングに重きを置き、伝統やステータスを重んじ、羞恥心を持ちます。低LTOは現在のことや個人の安定に重きを置きます。
自分の意欲や感情を自由に満足させることができるかどうか、を表す次元です
。高IVRは楽しむことや満足を得ることに積極的であり、低IVRは厳格で、人々の行動を規制することに重点を置きます。
Hofstede’s cultural dimensions理論の6つの次元、それぞれの特徴をありありと思い浮かべながら、次の章に進んでいただきたいと思います。
4つの国籍のマネジメントメンバーでプロジェクトを運用していた頃を思い出しながら、少し懐かしい気待ちで本稿を執筆しています。当時のマネジメントメンバーそれぞれの特徴をHofstede’s cultural dimensions理論の6つの次元で比較した表がこちらです。
※https://www.hofstede-insights.com/product/compare-countries/ にて比較実施
これは日本人のみで構成されたチームでは想像し辛いことかもしれませんが、このグラフで示されている通り、低PDIのメンバーはどんな年齢やポジションの人と話をする時も話し方や接し方にあまり変化はありません。低IDVのメンバーは、やはり高IDVのメンバーの言動に不満を募らせがちですし、低MASなメンバーによる仕事の割り振り先はいつも個性豊かになっていました。
高IVRのメンバーは仕事が例え切羽詰まっていてもしっかりと予定通りバケーションを取得しますし、仕事に関するメールの返信はほぼありません。そして高UAIのメンバーが安定的な組織運用を貫こうと不確実性を出来る限り最小化しようとする一方で、突然の変更であってもそれが価値のあるものと判るや最も柔軟に対応していたのは低UAIのメンバーでした。
基本的には、それぞれの次元の値が近いほど、その次元が深く関わっているコミュニケーションにおいては自然と違和感なく、また値の離れた次元が深く関わっているコミュニケーションでは違和感を感じやすいといえます。例えば高LTOの中国人と日本人(私)は、共に長期的な成長を思い描いたりすることは共有しやすい一方で、突然の変化に対する許容度は約3倍も異なる、この次元においては完全に真逆の特徴を待ちます。
Hofstede’s cultural dimensions理論の6つの次元をしっかりと学ぶことによって、私はコミュニケーションの違いに当惑することなく、それぞれを尊重しながらこのプロジェクトを前へと進めることができたのだと確信しています。このプロジェクトはその後、高い人材定着率と不確実性の高い市場環境下での柔軟な対応を社内外に評価され、規模を約3倍に拡大することができました。
職場での対人関係では、各自の持つ文化的規範が大きな役割を果たします。特定の文化で育ったことで、その文化での行動規範はその人にとって当たり前のものとなります。しかし、他国の文化を考慮すべき状況になると、自身の当たり前を前提に物事を進めることは極めて困難になります。
Hofstede’s cultural dimensions理論を参考にすることで、未知のものへの不安を減らし、決定的な間違いを避け、適切なアプローチをよりとりやすくなると言えるのではないでしょうか。
川根靖弘
Bond-BBT Global Leadership MBA 修了生
1983年生まれ。千葉県出身。妻と娘の3人家族。
父の転勤により2年単位で日本全国をまわる幼少-青春期を過ごす。
高校を卒業後、一浪し早稲田大学社会科学部へ入学、専攻は社会学。大学卒業後、デンマークの医療機器メーカーに就職、第二営業部に所属。28歳にて最年少MGR、年上の部下を持ち、関東~北関東地域を担当。在職中に参加したスペインでの国際営業会議での強烈な原体験から海外MBA取得を決意、2015年5月にBond-BBT Global Leadership MBA入学、2018年2月修了。在学中の2017年4月にコンサルティングファームへ転職、営業からコンサルタントへキャリアチェンジ。
現在はコンサルタント業務の傍ら、Bond-BBT Global Leadership MBAのAlumni組織である“豪研会”の幹事⾧としてAlumniのタテ・ヨコのつながりの強化に奔走。
また、“BBT-Bond Toast Masters Club”に所属し英語プレゼンテーションスキルとリーダーシップスキルの向上に取り組んでいる。