講師: 山本政樹(株式会社エル・ティー・エス執行役員)
編集/構成:mbaSwitch編集部
組織の目標に向かって全体最適、かつ継続的にビジネスプロセスを変革実行する、ビジネスプロセスマネジメント。
第1回目では、ビジネスプロセスマネジメントでは①プロセスの構造理解、②目標と実績の管理、③社内コミュニケーションという3つの要素が非常に重要になることを解説しました。
第2回目となる今回の講義では、この中でも特に、①プロセスの構造理解を中心にお話しします。組織の中にはどのような仕事があって、それぞれの仕事はどのような要素から成り立っているのでしょうか。
これらを説明できるようにするために、プロセス構造を可視化することについて、お話ししていきましょう。
プロセスには、大きな二つの軸、「流れ」と「階層」があります。
基本的にプロセスの構造を可視化する場合、上から順番に高い階層から可視化していくというのが鉄則です。小さな階層から可視化してしまうと、それぞれ作ってきた業務フローがきちんとつながらなくなってしまったり、粒度がまちまちになってしまうからです。
しっかり上の階層から大きな仕事を可視化していって、その大きな仕事の中にどのようなより細かい仕事があるのかを順に可視化していく流れになります。
そして、上から順番に階層を可視化していくときに作るのがプロセスマップです。
プロセスマップ上でビジネスプロセスの全体像が俯瞰できるようになっていることで、自分たちが行っている仕事はビジネスプロセス全体の中ではどこに位置づけられるのかが分かりますし、ある全体の中の仕事は、細かくしていくとどのような流れになっているのかということをきちんとつなげてみることができます。
プロセスマップには、以下の目的があります。
同じ会社の中で、業務の呼び方が組織や人によって違うことが意外と多くあります。これでは部門間のコミュニケーションに無駄が生じてしまいます。業務をリスト化し、マップ化する中で、その業務はどう読んで、何を示しているのかという認識を統一することができます。
各プロセスの能力を見極め、業績を管理するための指標であるKPI。KPI管理の鉄則は、KPIを設定したり、改善したりする際に、どのプロセスから測定することができるのか、また、どのプロセスを変えたらこのKPIに良い影響があるのかをきちんと設計することです。
よってKPIは設定するだけではなく、取得するプロセスと、それをもとに改善するプロセスときちんと紐づけて考えなければなりません。そのためにプロセスマップが必要になるのです。
基幹システムの導入といった全社単位での取り組みを行う際に、プロセスマップによってプロセスが可視化されていると、影響を受けるプロセスを抜き出し、そのプロセスに紐付く組織の方との調整が可能となるので、計画作りを素早く行うことができるようになります。
仕事全体が可視化されている、すなわち仕事の一覧が先にあって、それをどう役割分担するかというのが組織設計の本来の在り方です。そのためには、仕事の全体像であるプロセスマップがないとうまくいかないということになります。
以上のように、プロセスマップはビジネスプロセスマネジメントを進める上でのスタートラインになります。プロセスマップがあることで、プロセスの全体感を俯瞰して、業務を詳細化する単位となったり、取り組みの範囲をきちんと可視化したりすることができます。
また、いかにKPIを設定し、どの組織がそのKPIに責任を持つのかを決める単位にもなります。組織の役割分担への認識合わせにも使えるので、会社経営全体でこのようなプロセス区分がきちんとあるということは、大きなメリットとなるのです。
プロセスには組織が紐付いていますが、この組織がプロセスのオーナー(プロセスオーナー)になります。オーナーはKPIを見ながら、プロセスの生産性や能力を上げていく活動の責任を負います。プロセスに対して外部から何らかの要求があった際に、その期待に応えるのか、断るのか、そのようなことをきちんと裁くのも、プロセスオーナーの役割です。
プロセスに対してプロセスオーナーがいて、それぞれのプロセスにKPIが紐付いている。一段下にいくとサブプロセスがあってサブプロセスオーナーがいてサブKPIがある。このようなプロセスとオーナーとKPIの3点セットのピラミッドが基本的なビジネスプロセスマネジメントの根底の思想にあるのです。
なお、実際の組織に落としてみると、あるプロセスに対して一組織が紐付くケースは稀で、ほとんどプロセスは色々な組織が連携をして行われています。また、そもそも誰も実行に関わっていない仕事、すなわち、プロセスがまるごとシステム化や機械化されている場合もあります。
たくさんの組織の中で、誰がそのプロセスに責任を持つオーナーとなるのか。また、完全にシステム化や機械化がされているプロセスも、誰がそのプロセスのオーナーで、現行のプロセスに変化が必要な場合のリーダーシップをとるのかが決まっていることが大切になります。
プロセスを俯瞰する中で見えてきた個々のプロセスを抜き取ったときに、一つひとつのプロセスはどのような構造で成り立っているのでしょうか。
プロセスの基本要素はIPO、すなわち、インプット(Input)、処理(Process)、アウトプット(Output)です。アウトプットされたものが次の工程のインプットとなって処理が加えられて、またアウトプットとなります。これをどんどんつなげていくと、最後お客さまに製品やサービスが届くのです。
ですからプロセス設計の際には、まずアウトプットが何であるのかを考えることが非常に重要です。売上や利益につながる成果が究極的には目的としてあり、このために製品やサービスを提供し、この製品、サービスを作るために処理手順やインプットという要素があるという順番になります。
このインプットとアウトプットとあわせて、構造として理解をしなければならない要素が二つあります。
例として、通販業界の紙カタログのデザインについて考えてみましょう。
紙カタログを作成するプロセスのインプットは、商品情報やデザイン素材ですが、その他業務遂行に必要な要素として、発刊の方針やデザインのガイドライン、スケジュールといったような、処理に対して方針や基準を提供するガイド(Guide)があります。
さらに、イネーブラ(Enabler)と呼ばれる設備、用具、ソフトウェア、デザイナーといったような処理にリソースやツールを提供する要素があります。これを前述のIPOと組み合わせて考えると、業務とはインプットをもとにガイドに基づいてイネーブラが処理手順(プロセス)を実行することでアウトプットを生み出しているということができます。これがプロセスの基本的な構造です。
これを一般的な形で置き換えると、ガイドには、目的やKPI、事業の戦略計画、品質方針、環境方針といった一連の方針、さらには規制や法令といったものが入ります。ガイドは処理手順上の判断をする上での重要な根拠にもなるので、プロセスをしっかり可視化しようとすると、単純なIPOだけではなくて、これらのものもしっかり理解する必要があります。
このように、何か一つの業務をしっかり理解し、改善(改革)しようとする際にはインプット、プロセス、アウトプット、ガイド、イネーブラという5つの観点をしっかり着目する必要があるのです。
企業の中には、最終的にお客様に製品やサービスを届けるプロセス以外にも、ここで説明したガイドやイネーブラを提供することに特化したプロセスがあります。
この観点から社内に存在するプロセスの種類を区分すると大きく分けて3種類となります。
一つ目は、お客様に価値を生み出す事業の中核となるプロセスで、これをコアプロセスと呼びます。
二つ目は、経営管理や戦略策定、環境方針といったガイドを提供するプロセスで、これをガイディングプロセスと呼びます。
そして三つ目は総務、人事、設備管理、情報システムといった業務遂行の基盤を提供するプロセスで、これをイネーブリングプロセスと呼びます。
自分たちはこのようなプロセス構造の中のどこにいるのか。また、もしガイドやイネーブラを提供する仕事をしている場合、どのような形でコアプロセスに貢献し、間接的にお客様の価値貢献に関わっているのかということを、構造の中から認識してほしいと思います。
関係者の中で流れと役割分担の認識が合わせやすいため、プロセスマネジメントの世界では業務フローがよく使われます。業務フローとは、プロセスマップを引き継いでその先をどんどん細かくプロセスの手順を可視化したものですが、目的によって書き方も異なります。会社間の役割分担を検討したければ会社単位で書けばよいし、部署間、チーム間であれば、部署、チーム単位で書けばよいのです。
業務フローは、仕事の流れや役割分担を示すことは得意ですが、生み出されている成果物が何であるのかを記述したり、プロセスの分岐における判断のロジックを表すことは苦手です。よって、判断の可視化にはディシジョンテーブルといったような書式がよく使われます。
現在ビジネスプロセスマネジメントの世界では、ディシジョンテーブルなどを使った判断の可視化がホットトピックとなっています。判断が複雑なプロセスを可視化しシステム化すれば、より自動化できるのではないか。さらに、AIなどを使ってそのような判断を電子化し、解析すれば、より最適な判断が可能になるのではないか、ということが議論されています。
以上のような業務フローや判断ロジックの書き方については、世界的にたくさんの標準が出ています。書くためのツールもたくさんあります。専用のツールを使うことで、記述のスピードを1.2倍から1.3倍程度上げられるという調査結果もあります。当然のことながらツールは、国際標準に従って仕様が固まっていることが多いので、ツールを学ぶことと国際標準の表記方法を学ぶことはセットであると考えるとよいでしょう。
このようなものを使うことによって、記述スピードも上がりますし、自分たちで書き方の標準を考える必要もなくなるので、ぜひ標準とツール、両方を活用していただけるとよいかと思います。
山本政樹(やまもと まさき)
株式会社エル・ティー・エス執行役員
立命館大学政策科学部卒業後、アクセンチュアにてビジネスプロセスコンサルティングに従事、フリーコンサルタントを経てLTSに入社。
情報システム開発におけるプロセス設計や現場展開、ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)の導入など、ビジネスプロセス変革案件を中心に手掛け、現在はビジネスプロセスマネジメント及びビジネスアナリシスの手法や人材育成に関する啓蒙を中心に活動。