BBTインサイト 2019年4月2日

大前研一流 問題解決手法とは?(2)自分の未来は自分で切り開け!問題解決力があれば世界で活躍できる



大前研一(BBT大学大学院 学長)
編集・構成:mbaSwitch事務局 / BBT大学オープンカレッジ

「YAHOO!(ヤフー)」のジェリー・ヤンは、インターネットの黎明期に、その本質の一端にいち早く気づき、適切な手を打ち続けて大きな成功を収めました。アマゾン・ドット・コムのジェフ・ペゾスなどもインターネットのビジネスで成功したひとりです。そんな彼らの共通点とはいったい何でしょうか。

それは、誰も遭遇したことのない状況、言い換えれば前例の無い問題に直面したときに、その実態や本質を正しく把握し、適切に対応できる能力です。だからこそ、普通の人には見えないチャンスが彼らには見えていたのです。

これは何もインターネットの世界に限った話ではありません。自分で見つけなければどこにも答えのない今の時代、そのような「問題発見能力」「問題解決能力」を身につければ、ビジネスで成功できるチャンスは大きくなると言えます。

しかし、日本の多くの経営者やビジネスパーソンたちには、そのような問題解決力が欠けています。多くの人たちは「何をしたらいいか分からない」でいるままです。あるいは、一生懸命に何かをしていたとしても、なかなかうまくいきません。その理由の多くは、明白です。枝葉末節の議論ばかりしていて、大きな視点で問題を捉えて本質を突こうとしないからです。普通の人は目の前の問題に、つい飛びついてしまいます。そして、これまでうまくやれた方法で何とか対応しようとします。言い方を換えれば、ほとんど「思い付き」に近い解決策で、解決できると「思い込んで」対応しようとしているのです。

ところが、いくら苦労して行っても方向性が誤っていては、成果が出るはずがありません。日本の企業では、ビジネスに必要な能力が身につくような教育はほとんど行われていません。残念なことですが、これは疑いようのない事実です。

例えば、こうです。新入社員は営業部に配属されれば営業のやり方を、経理部に配属されれば経理の手法を、先輩社員から教え込まれます。そしてそれを上手く覚えれば、能力があると見なされます。あなたの会社ではどうでしょうか?

私に言わせれば、これらのプロセスは単なる仕事の引き継ぎ作業と何ら変わりがありません。こうした既存の仕事のやり方の伝承だけでは、ビジネススキルが身に付いたとは言えません。というのは、現代のデジタルネットワーク社会では、このような業務処理能力をいくら磨いても意味がなくなりつつあるからです。これらの仕事の多くは、いまやアプリケーションの中に収められるようになっています。経理であれば、電子会計ソフトを使えば素人でも入力が可能です。ミスがあるかどうかもAI(人工知能)がチェックをしてくれます。営業に関してもSFA(セールス・フォース・オートメーション)の中に「顧客をどのように見つけるか」「顧客にどんなプレゼンテーションをしたらいいか」といったノウハウがすべて入っています。

仮に業務の“引き継ぎ”をしていた新入社員が「先輩、この仕事はコンピュータでも代替できますよ」と提案したとしたらどうなるでしょう。先輩社員は、そのプライドを傷つけられたのも同然。「俺は今まで、こうして仕事をしてきたんだ!」と反論されてしまうのがオチです。業務を覚えてきた先輩社員にとって、その方向転換は恐怖なのです。「その業務の目的は何か?」「本当にやる価値はあるのか?」と問い、業務をゼロベースで組み立て直すことなどもってのほかです。

このような人たちが多数を占めているために、日本の企業では、個々人が業務の本質的な問題点を見出し、解決していくことがありません。「仕事を速くこなす」「仕事量を2倍に増やす」といった具合に、従来のやり方は何ら変えることなく、スピードと量で勝負してしまう「悪しき伝統」が継承されてしまうのです。

社員だけでなく、経営者も「問題の本質」に気づかない場合が多いといえます。会社を舟に例えるなら、経営者が、「業績を上げるため、頑張ろう!」と号令をかけたとします。すると、社員は一生懸命オールを速く漕ぐ。でも、どんなに速く漕いだとしても、そもそも舵を操るコックスに問題があるのです。だから結果として、舟は間違った方向に突き進んで、新たなフロンティアを見つけることなく、壁にぶち当たってしまう。当たり方が悪ければ沈没です。

私は、様々な企業のコンサルティング活動において、このような「問題の本質」を指摘してきました。経営幹部の方、社員の方たちに「御社の問題点を挙げて下さい」とよく問いかけるのですが、その際にはいろいろな“問題点”が出てきます。

例えば、以前担当したところに、主力商品の売り上げが落ち、経営不振に陥った企業がありました。そこで社内調査をしていくと「魅力的な商品が少ない」「開発生産コストがかかりすぎている」「販売ルートが貧弱だ」「宣伝が足りない」等々、実に様々な“不振の原因”が指摘されます。そして経営者は、これら総花的に列挙されたことすべてを改善しようとしていました。

しかし、です。私に言わせると、これら指摘されたことすべては“現象”に過ぎません。“本質的問題点”ではないのです。これらが本当に問題点であったなら、こんな問題だらけの企業はとっくに潰れていないとおかしいはずです。

経験上、ほとんどの場合は、5割以上のウェートを持っている本質的問題=原因は、1つか2つしかありません。たくさん問題がありそうに思えたとしても、1つの本質的問題を原因として起きた「現象」が、いろいろなかたちで出てくるだけなのです。

原因と現象の区別の付かない人は、問題がたくさんありすぎて解決のしようがない、という言い方をすることがあります。そして、現象を原因だと思いこみ、現象に対して対症療法を施し始めてしまう。そもそも原因は直っていないわけだから、また別の形で問題は出てくる。そうすると、それに対してまた対症療法を施す。このように際限なく見当違いの対症療法を繰り返す羽目になり、コストばかりが嵩んでいく…。同様な経験をしたことのある人も多いのではないでしょうか。

これでは非効率極まりません。本質的問題=原因を見つけ出し、それを解決しない限り、問題現象は決して消えないのです。結局先ほどの企業の場合、経営不振の原因になっているのは「その企業が競争相手の真似ばかりしている。顧客ニーズに裏付けられた新商品を開発せず、保守的な体質を持っている」ということでした。この体質にメスを入れない限り、後で別の形で問題点は現れ続けることでしょう。

これは国政でも同じです。故小渕恵三首相時代、その諮問機関である経済戦略会議は、1999 年2月に提出した最終答申「日本経済再生への戦略」の中で、今後日本が改善すべき項目を 234 個も列挙しました。

しかしこれも「本当にそうなのか」「なぜ、これらの現象が起きるのか」と頭を使って考えていけば、234 個もある改善手法は表面上の問題だとわかります。つまり、これらの改善項目はあくまで現象にすぎず、これらを引き起こしている根本的な問題はもっと他にあるのではないかと思うようになります。「現象」と「原因」を混同し、234 もの現象を解消しようとしても、徒労に終わることは見えています。

詳細は省きますが、私に言わせると、日本経済停滞の原因はただ1つ。それは中央集権体制です。道州制を導入して地方に行政上の権限を大幅に委譲し、全国の経済を活性化することが、日本経済再生への解決策になると考えています。国土の差はあれども、北京による中央集権体制が瓦解し、各省が競って経済活動の活性化に努めた中国の経済が好調であることを見れば、それは明らかです。

企業から国政まで話は広がりましたが、私が伝えたいメッセージは1つ。これからは、国民1人ひとり、従業員1人ひとり、国の指導者も経営者それぞれが、常に「なぜ」「これはなぜなんだ」と問題の本質を問うていく姿勢が重要になったということです。「考える力」は先天的な能力だとよく勘違いされますが、そうではありません。訓練すれば誰でも身につけられる後天的なものです。

「問題発見能力」「問題解決能力」を身につけた日本人がどんどん増えていけば、日本も大きく変わるに違いありません。私は日本が少しでも良くなる手伝いができればと思って、今こうして記事を書いています。これからの世の中には「受験勉強」のような正解は用意されていません。問題すら用意されていません。現象にとらわれず、自ら本質的な問題を見つけ、回答を作り、対処していかなければならない世の中になりました。

「問題解決者」だけが、これからの大変化の時代においても自ら道を切り開き決然と前へ進んでいけるのです。自分の未来は自分で切り開こうではありませんか。そして、今の企業や日本を変える人材になろうではありませんか。

この記事は2013年6月1日に発行された小冊子「大前流問題解決法 第10版」(BBT大学オープンカレッジ 問題解決力トレーニングプログラム)の内容を、当サイト用に転載したものです。


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大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。