講師:森 雅浩(Be-Nature School代表)
編集/構成:mbaSwitch編集部
出典:Photo by Benjamin Child on Unsplash
会議で効果的に成果を生み出すために「創造的な話し合いの流れ」があり、この流れには大きな4つのステージがあります。まず、最初に情報や課題などを共有する「共有」ステージ、様々な可能性を探る「拡散」ステージ、そして議論して考え抜いた結果を整理する「収束」ステージ、最後に文章などで確認する「共有」ステージです。
これらのステージでファシリテーションスキルを有効に使いながら、創造的な成果を生み出していきます。前半と後半の2回に分けて詳しく見てきます。
前半の今回は、拡散ステージまでを具体的に見ていきましょう。
今回は、創造的な話し合いの流れの中で使うファシリテーションをテーマにお伝えします。具体的な内容に入る前に、今回の求める成果を確認しておきたいと思います。
求める成果は、「ファシリテーションの考え方と基本スキルを理解し、よしやってみようと一歩踏み出す」です。読み終わった後のみなさんの状態を少しでも喚起できるような内容になっています。また、みなさんは会議を良くしたいと思う方、もしくは、会議の運営や進行をする必要のある方の立場で読み進めていただければと思います。
これからいくつかのファシリテーションスキルを紹介していきますが、みなさんの会社や組織などの現場を想像しながら読み進めていただき、試せそうな物があれば、すぐにでも現場で試してみてください。上手くいかなくても何度もトライする事が大事ですので、めげずに何度もトライしていただければと思います。
最初に成果の上がる創造的な話し合いの流れを確認しましょう。下図を見てください。
まず、最初の「共有」ステージでは、しっかりと情報や課題が共有され、お互いの考えや人を知る事が行われます。次の「拡散」ステージでは、アイディアを広げたり、様々な可能性を探ります。「拡散」の後には、ちょっとした産みの苦しみである混沌の時間があり、その混沌の時間を経て、整理して絞り込み、まとめる「収束」ステージがあります。最後に、改めて「共有」ステージがあります。この流れのタイミングで使うと良いファシリテーションの色々なスキルを、今回はご紹介します。
ただ、絶対にこの流れでこのスキルを使わなければいけない、というわけではありません。代表的に、このタイミングで使われることが多い、と、少し幅を持って読み進めていただければと思います。また、全体を通じて使うスキルもあります。まずは、全体を通じて使うスキルから見ていきましょう。
全体を通じたファシリテーション、一つ目は、やり方を伝える「インストラクション」です。
「次はこうしてください」というように、ファシリテーターがやり方を伝える場面が色々なところであります。やり方を簡潔に分かりやすく伝えるコツは、「何」「なぜ」「どう」です。つまり、「何を」やるのかを端的に伝え、それを「なぜやるのか」というねらいを明らかにして、その上で「どのように」やるのか、方法を説明します。このポイントがファシリテーターの頭の中で整理されていないと、参加者にもきちんと伝わりません。
ただし、頭の中で整理できていたとしても、言い忘れる時もありますので、伝えた後に、「何か質問ありませんか」と質問を受ける時間を設けておくのがお勧めです。言い忘れがあったとしても、参加者の質問に対して、「それにはこういう意味があります」と言い忘れたことを補足できます。また、質問の時間を作ることで、参加者に意図した手順が伝わったか、疑問点はないか等を確認できます。
また、必要があればモデルを提示するという方法もあります。例を話したり見せたりして、イメージをしやすくする方法です。ただし、やり過ぎと誘導になってしまいますので、最小限に止めておくのが無難です。
インストラクションと似た言葉にオリエンテーションがありますが、ニュアンスが異なります。その会議の全体の方向性を最初に大きく伝えるのがオリエンテーション、次にやることの説明をするのがインストラクションです。語感が似ていて、混合しやすいので注意してください。
全体を通じたファシリテーション、二つ目は、タイムキープです。
タイムキープ(=時間の管理)は、ファシリテーターの仕事の中でとても重要です。タイムキープの前提として、会議室には分かりやすい大きな時計を置くようにしてください。そうする事で「あの時計の長い針が5のところまでやりましょう」という共有認識ができます。また、アジェンダの段階で、あらかじめ終了時間や使える時間を示し、終わりを決めるという事がとても重要です。
時間の感覚はものすごく伸び縮みしますので、ファシリテーター役の人は、タイマーを使っていただくのがお勧めです。集中して話していると時間は短く感じますし、あまり気分が乗っていないと長く感じます。自分の感覚だけを頼りに時間を区切っていると、どこかでおかしくなってしまう場合もありますので、時間を区切る際は、タイマーを使っていただければと思います。
また、この他に、空間デザイン、グループサイズ、板書があります。詳細については、話し合いの成果を高めるファシリテーション <第2回>で詳しく説明していますので、今回は省略させていただきます。
(※話し合いの成果を高めるファシリテーション <第2回>を読みたい方は ⇒ こちらから)
ここまでが全体を通じてのファシリテーションです。次からが共有ステージになります。
共有ステージの一つ目は、オリエンテーションのOARRです。
詳細については、話し合いの成果を高めるファシリテーション <第2回>で詳しく説明しています。とても大事な部分なので、しっかりとオリエンテーションを行うようにしてください。
(※話し合いの成果を高めるファシリテーション <第2回>を読みたい方は ⇒ こちらから)
二つ目は、チェックインです。
ホテルのチェックインと同じような意味で、会議の一番最初に全員が短く発言する時間をあえて設けます。オリエンテーションでこれからやることを共有した後、短くてもいいので、全員に何かを話してもらうようにします。こうする事が、その後の話しやすさにつながります。
話す内容としては、今の体調や気分、ちょっとした近況の共有、また、必要伝達事項はないかといったことをよく使います。必要伝達事項は、この会議の途中から別の会議があり、終了30分前に退席するという事などです。さりげなく退席される方もいらっしゃいますが、こういう事が最初に分かっていれば、会議の進行を工夫して影響がないようにもできます。
三つめは、アイスブレイクです。
緊張の氷を壊す(ブレイクする)ことをアイスブレイクと呼びます。どちらかと言うと、アイスブレイクは専門用語なので、私はウォーミングアップという言い方をする事が多いです。たまにファシリテーターで「今からアイスブレイクをします」という方がいらっしゃいますが、緊張しているということを改めて認識させてしまうので、「ちょっとこれから頭も使うし、集中したいので、会議に向けてちょっとウォーミングアップをしましょうか」という言い方が良いかと思います。
アイスブレイクについては、「アイスブレイク集」という本が世の中にたくさん出ていますので、そちらを参照してみてください。
次の拡散ステージでは、「問いかけ」、「傾聴」、「プルとプッシュ」を使います。問いかけて思考を触発し、創造的な成果につなげていくステージとなりますので、非常に重要なステージになります。
「問いかけ」をする際は、参加者の中にちゃんと答えが眠っているという前提があります。人は誰でも問われると、それに触発されて考え始めます。また、「問いかけ」を行う際は、べき論から入らないで答えやすくて個人的な体験や実感から始める事が重要なポイントです。
「来年度の方針はどうすべきか?」は、べき論です。いきなりこのような「問いかけ」を行っても、なかなか意見は出てきません。代わりに、「今年度はこういうことをやってみたからどうだった」等の実感値や、「これが上手くいかなかった、上手くいった」というような経験値など、答えやすい「問いかけ」から始めるようにしましょう。
「問いかけ」は、思考のステップに乗る事が重要です。そうすることで、「問いかけ」を受けた人の思考が始まるからです。
例えば、「良い会議の条件は?」という話をする際も、「会議と言えば○○」、次に「今まで『参加して良かった会議』はどんな事がありましたか」という経験値の「問いかけ」、さらにその次に「良い会議ってどんな会議か」という要素を洗い出していきます。身近で感覚的な「問いかけ」から始めて、ステップを踏んで思考等の深まりや結論につなげていきましょう。これは「問いかけ」の大前提です。
ステップを作ってあげるという意味では、クローズクエスチョンも使い道があります。イエス・ノーで答えられるのがクローズクエスチョンです。例えば、「みなさんどう思いますか」と聞く代わりに、「今、こういう意見が出ました。どちらかというと賛同、いや、どちらかというとちょっと違和感あり、どちらだと思いますか?」と聞くと、参加者は答えやすいです。また、違和感のある人にその違和感はどういった物だったかと聞く事でステップを踏んで進める事ができます。
拡散ステージの二つ目は、傾聴です。
聴く事はなかなか難しいですが、多様性を一旦受けとめるのが、ポイントです。あえて「すごいですね」や「いいですね」というプラスの評価を言わずに、「なるほど」と言って、受けとめるだけで大丈夫です。プラスの評価をしてしまうと、周りの人にとって「何でこの人は高評価にされているのか」というふうに受け取られる場合があります。
スキルとして「アクティブリスニング」があります。「アクティブリスニング」は、「相手の言ったことを繰り返す」「自分の言葉で言い換える」「相手の気持ち、感情を汲む」がポイントとなります。基本的に繰り返すというのはすごく有効です。賛同も否定もしていませんが、繰り返すと、人は「受けとめられた」と感じるからです。
拡散ステージ三つ目は、「プルとプッシュ」です。
拡散ステージでは、問いかけて、待って引き出すプルが原則となります。「ご意見はありますか」と問いかけたとしても、誰も話さない長い沈黙が続く時がよくあります。長い沈黙はつらいので、質問を言い換えたり、補足説明をしてしまいがちですが、そうすると参加者が話す時間をファシリテーターが奪ってしまうことになりますので、なるべくやらない方が無難です。目安としては、20秒ぐらいは待つようにしましょう。
また、長い沈黙が続くと、「○○さん、どうですか」と指してしまう時があります。一度指したら、参加者の立場からすると「指してくれたら話せばいいんだ」という土壌を作ってしまう危険性がとても高いです。発言の自発性や自主性を奪う危険性がある、という事を認識しておいてください。
時には、「プッシュして圧力をかけて促す」場合もあります。例えば、「えっ?こんなものなんですね、みなさんの意見は」という事をあえて言う場合があります。バッシングをもらう可能性があるので、慎重にならないといけませんが、ある程度の関係性があれば、やっても良いかと思います。
また、そのグループのメンバーに対してファシリテーターがどこに立つかというファシリテーターの立ち位置も影響します。問いかけながらグループと距離を広げていくとプルになり、逆に問いかけながら迫るように距離を縮めていくとプッシュになります。ファシリテーターの立ち位置がメンバーに影響を与え、プルやプッシュにつながる事がある、という事を覚えておいていただくと良いかと思います。
自分の立ち位置も含めて、状況に応じてプルとプッシュを使い分けていただければと思います。
ここまで、拡散ステージまでを見てきました。後半は、いよいよ収束のステージに入っていきます。
講師:森 雅浩(Be-Nature School代表)
1960年東京郊外生まれ。早稲田大学社会科学部卒。
少年時代は湧き水を眺めるのと、自転車で土手を走り降りるのが好きだった。10年間の会社員生活を経て海洋環境系団体に身を投じ、国際会議のプロデュースを行う。その縁がきっかけでBe-Nature School立ち上げに関わり、1998年社名変更と同時に代表取締役に就任。アウトドアイベントの企画・プロデュース、ワークショップの企画・ファシリテーション、研修講師など多数実施。趣味はギターの弾き語りとキャンプで料理すること。
NPO法人自然体験活動推進協議会(CONE)理事。NPO法人NATURAL LING TRUST理事。