BBTインサイト 2020年5月21日

感情のマネジメント ~感情のコントロール、できていますか?~



講師:川上真史(ビジネス・ブレークスルー大学 経営学部 グローバル経営学科 専任教授 同 大学院 経営学研究科 教授)

ビジネスの場において、自分の感情をきちんとコントロールしておくということは、身だしなみであり、マナーです。

しかし日本社会においては、感情の伝え方に関する教育を受ける機会があまりなく、感情を伝えることを苦手とする人も多いのではないでしょうか。部下のモチベーションを上げ、成果に繋げていくためには、感情のコントロールが不可欠です。

本日は、感情のマネジメント術について、お話ししていきましょう。

1.部下のモチベーションを下げる上司の特徴

こちらは、部下のモチベーションを下げる上司の特徴です。皆さんの周りにも、このような人はいませんか。

・論理的だが、その論理を押し付ける。
・勢いはあるが、具体的方針や目標は何も示さない。
・ 一人で成果を出せるが、組織で動けない。
・経験豊富だが、過去のやり方にこだわり変化を拒む。
・能力は高いが、感情が不安定でキレやすい。

ご覧の通り、部下のモチベーションを下げているのは、ほとんどが感情に纏わる問題です。

これまで日本の教育の現場では、「聞く」ということばかりが重視され、「伝える」ということはあまり教育されてきませんでした。その結果、日本人は世界的にみても、自分の感情の伝え方について、あまり訓練されていないようです。

上司のパーソナリティの特徴は、部下のモチベーションに最も影響を及ぼします。我々は、「キレやすい」、「いつも穏やかで落ち着いている」などの感情的な部分を、その人のパーソナリティの特徴として見ています。従って、部下のモチベーションを上げ、成果につなげていくためには、自分自身の感情と、部下の感情を効果的にコントロールすることが非常に重要となるのです。

2.感情とは何か

人間の基本となる感情は、以下の8つであると言われています。

喜び、信頼、恐れ、驚き、悲しみ、嫌悪、怒り、予期

そして感情には、①生理学的反応を伴う感情と、②論理を伴わせた感情という、2つの方向性があります。

①生理学的反応が伴う感情

例えば「喜び」という感情は、何かにワクワクして夢中になるという生理学的反応を伴います。
「予期」であれば、体に防衛的な動きが起こり、警戒するでしょう。「恐れ」であれば、体が震えて恐怖を感じます。このように、感情そのものに生理学的な反応が伴って、別の感情になっていく現象が起こります。

②論理を伴わせた感情

論理を伴わせた感情は、人間特有のものです。
感情に論理を伴わせていくと、論理が感情に左右され、歪んでしまいます。しかし多くの人はそれに気付いておらず、自分の論理は正しいと思うのです。

例えば「悲しみ」は単なる感情ですが、人間はそこに、「何でこんなに悲しいのだろう」という論理を伴わせてしまいます(物思い)。そして「怒り」は苛立ちです。「何であいつはいつもこうなんだ」という論理が伴うと、怒りの感情が苛立ちになるのです。

従って、人間は8つの基本となる感情を、そのまま置いておくことができません。感情に何らか論理、すなわち、「なぜこんな感情になっているのか」という理由を付けたくなるので、そこに歪みが生じるのです。

そもそも感情とは、ある状況において素早く適切な行動を起こすために進化した反応で、今の状況が自分にとって好ましいか否かを瞬時に判断する機能です。これは哺乳類のみが持つ機能ですが、人間の場合、感情を論理に結び付けてしまうので、様々な問題が生じてしまいます。

ポジティブ感情を持てば、自動的にポジティブな判断をしますが、ネガティブ感情を持てば、ネガティブな判断をしてしまうのです。例えば、好きな人が何かに打ち込んでいるところを見ると、いつもポジティブな感情が出て、その人のやっていることは全て正しいと思いませんか?しかし嫌いな人であれば、その人の声を聞いただけでネガティブな感情が出てきて、その人の言うことは全て間違っていると思うことでしょう。

相手からの信頼を得るためには、たとえネガティブな感情を抱いたとしても、それを言語化していくことがポイントです。感情をそのままぶつけるのではなく、言語化して伝えることができれば、ネガティブな感情でも相手は受け入れてくれるのです。

一方、ポジティブな感情は、言語化する必要はありません。「嬉しい」という感情がそのまま現れてくれば、相手も受け入れてくれるのです。

ネガティブなところはできるだけ言語化して伝え、ポジティブなところはより感情を交えて伝えていくことが、信頼感のある行動に繋がっていくのです。

3.感情のコントロール方法

それでは、感情はどのようにコントロールすればよいのでしょうか。

① 感情(特にネガティブ感情)を言語化し、表現する習慣をつける。

まずはネガティブ感情をきちんと言語化することです。例えば、次のような言い方です。
「そのような言い方をされると、私はとても悲しいです。」
「そのような態度を取られると、誰だって頭にくると思いますよ。」

これが感情の言語化です。相手も受け入れやすいと思いませんか。このような言い方を日頃から意識して訓練しておくとよいでしょう。

② 表情のコントロール

こちらのアイコンをご覧ください。

丸の中に、パーツが多くても5つ。眉毛と目と口だけです。この5つの部分だけで、どのような感情であるのかが、世界共通で分かってしまうのです。従って、表情のコントロールも重要です。

③ 無意識的なボディランゲージのコントロール

表情と同様に、ボディランゲージも感情を相手に伝えてしまいます。例えば、小刻みに指先でものをたたけば、イライラしている印象を受けませんか。こちらも意識的にコントロールしておくことをお勧めします。

④ アンガーマネジメント

ビジネスパーソンにとって、アンガーマネジメントは身だしなみとして身に付けておくべきことです。以下の原則に則り、怒りをコントロールすることが重要です。

・怒りの感情は6秒以上続かないという原則に則り、怒りの感情がなくなるまで頭で6秒数える。
・アンガーマネジメントを必要とする問題のある怒りを自己認知する。
・自分自身の怒りのパターンを理解する。
・そもそも何に怒っているのかを特定する。
・怒りの感情は必ず問題解決に繋げる。

4.コントロールすべき怒りとは

コントロールすべき問題のある怒りとは、どのようなものしょうか。皆さん自身、以下ような怒りを持っていないかどうか、振り返ってみて下さい。

・長く続く怒り(怒りの恨み化)
・生理学的反応(血圧、心拍など)が伴う強い怒り
・ちょっとしたことでキレる怒り(ストレス反応)
・他者に対する攻撃(精神的、肉体的)が伴う怒り
・自分で怒っていると気付かない、正当化された怒り

そして、以下に示すように、怒りのパターンも個人個人で異なります。

▶モラルハラスメント型
自分なりの倫理基準(ルール)があり、そのルールから少しでも逸脱されるとキレる。

▶自己愛型
自分が大好きで、少しでも否定したり、自分の言うことに従わないとキレる。

▶気分屋型
その時の気分でキレる。

▶論破型
自分の論理に納得しない人間は徹底的に攻撃する。

▶派閥・信奉型
自分と同じ派閥や、自分が信奉する人の考えと異なる考えを持つ人間を攻撃する。

▶他者否定・競争型
相手を攻撃することで、自分は相手より上だという安心感を得る。

5.怒りへの対処方法

怒りの感情は極めてシンプルで、欲求充足が妨げられた時に起こる反応です。従って、怒りの感情が出た時には、まずは6秒待ってその感情を抑えましょう。その上で、欲求充足が妨げられているポイントを特定し、どうすれば充足することができるのかを客観的に検討することです。論理的に考えることで、解決に繋げていくことができるでしょう。

検討の結果、今回は欲求を充足することができないと判断すれば、次の機会を待てばよいのです。

最後に、怒りを言語化する具体的な方法について、お話ししておきましょう。

一つ目は、フィードバック法です。
フィードバック法とは、「私は今こんな気持ちになっています」というように、主語を「私」にして伝える方法です。

二つ目は、論理的帰結法です。
この方法は、「論理的に考えて、このようなことをやると、このような問題が起こります。」という伝え方です。

そして三つ目は、DESC法です。
こちらは上の2つを合わせたような方法で、Describe、Express、Suggest、Consequenceの頭文字を取ったものです。まずは①事実を描写して伝え(Describe)、②自分の意見や気持ちを表現します(Express)。それから、状況を変えるための解決策を提案し(Suggest)、結果を示唆する(Consequence)方法です。

自分の感情をこのような形で組み立てて相手に伝えていくことができれば、よりスムーズに感情を言語化することができ、問題解決にも繋がっていくでしょう。

感情のマネジメントにおいては「聞く力」に加え、「伝える力」も極めて重要な能力となります。

本日申し上げたことを参考に、自分の気持ち・感情をきちんと相手に伝えられるようになっていっていただければと思います。

※この記事は、ビジネス・ブレークスルーのコンテンツライブラリ「AirSearch」において、2018年9月24日に配信された『企業と心理学 04』を編集したものです。

講師: 川上 真史(かわかみ しんじ)
ビジネス・ブレークスルー大学 経営学部 グローバル経営学科 専任教授、同 大学院 経営学研究科 教授、Bond大学大学院 非常勤准教授、株式会社タイムズコア代表、明治大学大学院兼任講師、株式会社ヒュ-マネージ 顧問。
京都大学教育学部教育心理学科卒業。産業能率大学総合研究所、ヘイ・コンサルティンググループ、タワーズワトソン ディレクター、株式会社ヒューマネージ 顧問など経て、現職。
数多くの大手企業の人材マネジメント戦略、人事制度改革のコンサルティングに従事。

  • <著書>
  • 『コンピテンシー面接マニュアル』
  • 『できる人、採れてますか?―いまの面接で、「できる人」は見抜けない』(共著・弘文堂)
  • 『仕事中だけ「うつ」になる人たち―ストレス社会で生き残る働き方とは』(共著・日本経済新聞社)
  • 『会社を変える社員はどこにいるか―ビジネスを生み出す人材を育てる方法』(ダイヤモンド社)
  • 『自分を変える鍵はどこにあるか』(ダイヤモンド社)
  • 『のめり込む力』(ダイヤモンド社)
  • 『最強のキャリア戦略』(共著・ゴマブックス)など