大前研一メソッド 2021年7月20日

無印良品の社長に、競合ファーストリテイリングの社長候補だった堂前氏が昇格へ

生活雑貨店「無印良品」を運営する良品計画は2021年7月2日、堂前宣夫専務が同年9月1日付で社長に昇格する人事を発表しました。堂前氏は競合ファストリテイリング(以下、FR)のナンバー2だった人物です。

無印良品(売上高の今期見通しは4876億円)の堂前氏が、古巣FR(同2兆2100億円)に挑戦状を叩きつけ、両社の真剣勝負が始まるとして、BBT大学院・大前研一学長が注目しています。

大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

良品計画は、堂前氏の欧米展開実績に期待か?

堂前氏は、私が日本支社長をしていた「マッキンゼー・アンド・カンパニー」日本法人を経て、ユニクロを展開するファーストリテイリング(以下、FR)の副社長などを歴任した。良品計画はかつて旧セゾングループで、これまで西友出身者が歴代の社長を務めていたが、非西友の社長は初となる。

堂前新社長は同じ山口出身のFRの柳井正会長兼社長に誘われ、ユニクロが東京・原宿に進出した1998年に入社した。2カ月後に20代後半で取締役、30歳で常務、30代半ばで副社長、上席執行役員に就任した。柳井氏の後継候補とも目されていた。2007年に退任する直前にはFRの米統括責任者になっていた。

それが2019年に良品計画に入社した。良品計画はいい会社だが、無印良品の欧米展開は売り上げ、収益ともにうまくいっていない。「今後は欧米展開をよろしく頼むね」ということで、良品計画の社長を任せたのだろう。



【図1】無印良品の地域別業績

ファミマ社長(現副会長)の澤田氏、ロッテ社長の玉塚氏を輩出したFR

ユニクロ出身の経営者というと、ファミリーマートの澤田貴司社長(現副会長)や、2021年6月に就任したロッテホールディングスの玉塚元一社長らがいる。

澤田氏は伊藤忠商事を経て1997年にFR入りし、柳井氏の片腕として活躍したアパレル業界の伝説の人物。原宿店の責任者として同店を大繁盛させ、ユニクロブームを作った。FRの副社長になったものの、2002年に退社した。

その澤田氏に誘われて旭硝子(現AGC)、日本IBMを経て1998年にFRに入った玉塚氏は、2002年に社長に就任した。

2005年に退社後、先に退社していた澤田氏と企業の再生などを手掛ける「リヴァンプ」を設立。経営不振が続いたロッテリアをV字回復させ、クリスピー・クリーム・ドーナツの日本進出などを手がけた。玉塚氏は2010年、今はサントリーの社長を務める新浪剛史氏に引き上げられて2014年からローソン社長、澤田氏は2016年にファミリーマートの社長に就任した。3社独占に近い日本のコンビニ業界の2社をFR出身者が経営するというドラマが展開された。

FRは「プロ経営者養成学校」なのか? 堂前氏は試金石

私は対談集『この国を出よ』(小学館)など柳井さんとの共著もある。柳井さんは不思議な人で、「迷ったらマッキンゼーの出身者を雇え」というところもある。この前、柳井氏と一緒に私のところにきた人事担当の幹部も元マッキンゼーだった。

柳井氏が「息子や親族は社長にしない」とマスコミで発言したことについて、私が『プレジデント』誌に「経営者は将来の選択肢が狭くなるようなことを言ってはいけない」ということを書いたら、その人事の幹部と一緒に私を訪ねてきたわけだ。

柳井氏に「息子を社長にしたいって顔に書いてありますよ」と言ったら、人事担当の幹部に「そんなこと顔に書いてあるか」と聞く。「われわれもそう思ってます」と即座に言われて柳井氏はガクッときていた。

柳井氏は日本で最も安定し、実績を上げているグローバル企業の創業社長である。彼は常に人材を求めているし、また人を見る目には確かなものがある。ただ幹部に登用しても、我慢して長くやらせることがない。多分、自分がやった場合を想定して「ダメ」と言うのだろう。柳井氏にダメ出しされた人たちが、いつの間にか、日本では「プロの経営者」と呼ばれてもてはやされている。

しかし、彼らは新しいところでも4~5年でほとんど再転職している。これは「プロ経営者」の特徴なのか、「期待したほどの成果を上げていない」場合にお互いに忍耐心がなくなって回転ドアが回ってしまうのか。今回の堂前氏のケースも遠からず判定が下る。

ショッピングモールで「ユニクロの最大のライバル」と言われる無印良品のトップにユニクロの染色体を持つ堂前氏が就くというので、大いに興味を持つ。外野席からじっくり見学させてもらうことにしよう。

※この記事は、『大前研一のニュース時評』 2021年7月17日および「大前研一ライブ」#1075 2021年7月11日放送を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。