大前研一(BBT大学大学院 学長 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部
財務省は2024年度上半期に1万円札、5千円札、千円札の紙幣を一新すると発表しました。新紙幣の図柄に誰の肖像画が採用されたかなど紙幣そのものに報道が集中していますが、財務省の公式発表に対して違和感を感じると大前研一学長は言います。大前学長が感じる違和感とは何なのか。公式発表では触れられていない「何か」が隠されているとするならば、それはどのような可能性が考えられるのか。大前研一学長に聞きます。
財務省は紙幣一新の理由を「偽造防止」と言っているが、これは違うと思う。中国の100元紙幣は、「どのくらい偽造されているのかすらわからない」という状況なのに対し、そもそも日本では偽造がほとんどない。中国でキャッシュレス化が拡大しているのは、自国の紙幣を信用していないからだ。そういう点から考えても、偽造防止が目的ではないハズだ。
新元号のお祝いムードで勢いに乗っているときに、さらに新紙幣の発表で、予想される衆参ダブル選が有利に運ぶよう相乗効果を狙ったこともあるだろう。
また、50兆円もあるとされるタンス預金を表に引き出そうという狙いがあるともいわれる。しかし、これはあまり意味がない。タンス預金が出てきたところで、0.1%も金利がつかない。表に出すメリットがない。新紙幣を発行しても「古い紙幣は何年間かは使えますよ」となれば、急いで使おうというお人よしもいないだろう。
財務省の紙幣一新の目的は、別のところにありそうだ。前回の2004年の新紙幣一新は流通開始の2年前に発表したが、今回は「5年」と本来必要な準備期間よりもだいぶ前倒しに発表している。裏で何か考えているのではないか。
実は2004年の前回の新紙幣一新計画は、「財政赤字を減らすこと」が隠れたテーマとしてあった。財務省には、新紙幣発行の混乱に乗じて額面の2割くらいを財産税のようなものとして徴収する計画があったと言われている。つまり、1万円持ってきたら8000円と交換して、国が20%パクる。それにより、国の借金を一気に減らそうと考えていた。
そのための複雑な操作ができるかどうか、ATM(現金自動預払機)製造会社に依頼したが、それが某関西地区の国会議員に漏れて、財務省に「なぜこんなことをやろうとしているんだ」と問い合わせて、この“悪だくみ”はバレて流れてしまった、と言われている。恐れられていた国債の危機も去っていったので本件は沙汰止みとなった。
財務省は当時、日本国債の暴落が引き金になって世界恐慌になることを非常に恐れていた。そこで、平成の徳政令(借金帳消し)をやろうとしたわけだ。
財政破綻を避けるには、その価値を何%か割り引いた新貨幣を発行して、国の借金を減らすしかない。その場合、“徳政令”はある日突然、出さねばならない。と同時に、1週間程度の預金封鎖を発動しなければならない。資産逃避を防ぎ、預貯金にも課税するためである。
日本は現金の流通残高が非常に大きい国で、キャッシュレス化も叫ばれている。それに逆行し、「新紙幣は肖像の3D画像が回転するホログラムを世界で初めて採用して、偽札ができないようにしている」などと自慢しているが、私は何か隠された別の意図があると思う。
OECD(経済協力開発機構)は「日本の消費税を20%以上にしないと財政がもたない」と日本に対して警告している。1800兆円の個人金融資産に1%くらいの課税をする、となれば18兆円の歳入だ。企業の持つ余資と併せれば25兆円くらいの税収増になる。これで消費税を10%から20%に上げたのと同じ歳入増になる。つまり「金融資産を一度全部表に出させて、薄く広く課税する」という意図が透けて見えてくる。
「日本国債暴落の危機がいよいよ迫ってきた」と判断したら、ある日突然すぐに発動できるようにあらかじめ新紙幣を刷るだけ刷っておいて、5年後より前倒しに必要となれば一斉にドーンと出して、「古い紙幣は何か月後には通用しなくなります」というシナリオが考えられる。
大前研一
プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。