執筆:北憲祐(ビジネス・ブレークスルー大学院教務部 部門長)
編集/構成:mbaSwitch編集部
みなさん、こんにちは。
ビジネス・ブレークスルー大学院 教務部の北憲祐です。
昨今の新型コロナ感染症拡大に伴う外出自粛に伴い、オンラインでの学習が注目を浴びていますね。
国内でも多くのオンライン学習のニュースが報道されていますし、海外でもHarvard Business Publishing Educationなどではオンライン学習に関するツールや記事、ガイドラインなどについて“Moving Your Classroom Online”という特設ページを作って最新情報を色々と発信しています。
私たちビジネス・ブレークスルー大学院は、世界中のビジネスパーソンが最新のビジネスをいつでもどこでも学べる環境を作るために2005年に国内初のオンラインMBA課程を持つ経営系専門職大学院として開学し、これまで1,300名を超える卒業生を世に送り出してきました。
また株式会社ビジネス・ブレークスルーとオーストラリア最初の私立大学であるBOND大学とのジョイントMBAプログラムとして2001年に開講したBOND University-BBT Global Leadership MBA Programも合わせると、2600名ものMBAホルダーをBBTのオンラインMBAプログラムから輩出してきましたが、こういった形でオンライン学習が注目されるとは思ってもいませんでした。
以前からMOOCs(Massive Open Online Courses)やEdTechといったキーワードでオンライン学習サービスが数多く出てきましたが、まだ試したことがない方は多いのではないかと思います。
その大きな理由として「オンライン学習って本当に身につくの?」という不安があるのではないでしょうか。
そこで今回から3回のシリーズで<どういったオンライン学習だったらしっかりと身につくのか>といった視点で、オンライン学習について研究成果やフレームワークを紹介しながら「いいオンライン学習」についてお伝えできればと思います。
カナダの研究者でランディ・ギャリソンという遠隔教育を研究している方がいるのですが、その方たちによると、オンライン教育においては
の3つが重要だそうです。これ示したのが図1の”Community of Inquiry”モデルです。
社会的存在感(Social Presence)は学ぶコミュニティに関するもの、認知的存在感(Cognitive Presence)は学習者個人の思考に関するもの、教授的存在感(Teaching Presence)は授業設計や講師の指導に関するもの、と理解頂ければと思います。
この3つが揃っている学習体系・プログラムかどうかで、しっかりと学べるオンライン学習かどうかが変わってくると言えます。
次はこの3つについてそれぞれ説明していきたいと思います。
まずは学習者個人の思考に関する認知的存在感(Cognitive Presence)ですが、ここではアウトプットと振り返りが持続的に行えるかどうかが重要なポイントになります。これだけではどういったことなのかイメージが湧かないですよね。
そこでまずは下の図2を見てください。
この図はクリティカル・シンキングをモデル化したもので、4つのフェーズ(①きっかけ、②探求、③統合、④解明)を経ることで、認知(Perception)→熟考(Deliberation)→着想(Conception)→行動(Action)→認知(Perception)のサイクルがまわり、思考を深めることができるというモデルです。
例えば、会社の研修とかで個人ワークの発表をクラスやグループで共有したとして、他の人のすごい分析や思いもよらない着眼点の発表があったとき、自分のアウトプットとその人のアウトプットの「差」に気づきますよね。
これがきっかけ(Triggering Event)となり、『認知(Perception)』の状態になります。
ここで認識したアウトプットの差について、なぜこの差が生まれたのか、自分の考えはどこが足りていなかったのか、逆に自分の良かったところはどこなのか、といったことについて一晩深く探求(Exploration)することで『熟考(Deliberation)』。
そして出てきた色々なアイデアや情報を統合(Integration)することでその理由や仮説にたどり着いたとしたらそれは『着想(Conception)』の状態です。更にその着想に基づいて解明(Resolution)したものを次の日みんなの前で再度発表をすれば『行動(Action)』となります。
ここで重要なのは、“きっかけ(Triggering Event)”を作ること、そして共有の世界(Shared World)と個人の世界(Private World)をできるだけ多く行き来することです。
先にも述べましたが、この“きっかけ(Triggering Event)”が思考を深めるサイクルのスタートであり、そのためには自分のアウトプットと他の人のアウトプットの「差」を認識する必要があるため、「自分のアウトプット」と「他人のアウトプット」の両方が必要になります。
つまり、自分の考えを整理してアウトプットを出す前に専門家の考えだけを見て分かった気になってしまう、また自分の考えはしっかりとアウトプットとして出しているが他の人のアウトプットなど比較対象がなく差を認識できない、という学び方では、この思考を深めるための“きっかけ(Triggering Event)”を作ることが非常に難しくなるのです。
また、このモデルに示されたサイクルも1周回すだけではもったいないです。
『熟考(Deliberation)』と『着想(Conception)』を経て『行動(Action)』まで移したのであれば、再度そこで生まれる差をきっかけに、認知・熟考・着想・行動と、何度もこのサイクルを回すことで更に思考力を高めることができます。問題解決力や論理的思考力を高める訓練の一つとして「why」と何回も自分に問いかけることで本質的な問題にたどり着くことができるというのをよく聞きますが、それと近い考え方ですね。
さて、今回は認知的存在感(Cognitive Presence)の説明を通して、思考力を高めるにはアウトプットを出すことと振り返りを行うことが重要であることをお伝えしました。
是非、皆さんもオンラインで学ぶ際には気にしてみてください。
次回は教授的存在感(Teaching Presence)と社会的存在感(Social Presence)についてお話したいと思います。
北 憲祐(きたけんすけ)
ビジネス・ブレークスルー大学大学院教務部 部長
関西学院大学商学部卒業。リーズ大学MBA修了。大手損害保険会社の営業、大阪の私立大学のオープンイノベーション推進担当を経て2016年に㈱ビジネス・ブレークスルーに入社。ビジネス・ブレークスルー大学大学院及びBOND University-BBT Global Leadership MBA Programのカリキュラム開発、受講生の学習及び学生生活支援、学校経営・ガバナンス等の業務に従事。