BBTインサイト 2020年7月9日

21世紀を切り拓くプログラミング的思考<第2回> これからの時代を生き抜く力とは?



講師:松林 弘治(リズマニング代表)
ゲスト:閑歳孝子(株式会社Zaim 代表取締役)
編集/構成:mbaSwitch編集部




近年、プログラミング教育が盛り上がりを見せています。みなさんの中にも、プログラミングを学ばれている、または、学びたいと考えている方がいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、非エンジニアから独学でプログラミングをマスターし、経営者となった異色の経歴を持つ株式会社Zaim代表取締役 閑歳孝子氏をゲストに迎え、どのようにプログラミングに触れてきたか、どうやってサービスを作ってきたか、また、プログラミングを学んだことでご自身にどんなメリットがあったのかを伺います。

それでは、詳しく見ていきましょう。

1.家計簿アプリ「Zaim」の顧客満足・継続を支える仕組み

松林:
今回は、株式会社Zaimの代表取締役、閑歳孝子さんをゲストにお迎えしています。閑歳さんは、専門の教育を受けず独学でプログラミングを始め、その後、個人で家計簿サービスZaimを作りました。Zaimの利用ユーザー拡大を受けて2012年9月に法人化し、代表取締役に就任されています。

閑歳さんがこれまでどのようにプログラミングに触れてきたか、また、サービスをどのように作ってきたのか、そして、プログラミングを学んだことによって、ご自身にどんなメリットがあったのかを伺いたいと思います。閑歳さん、よろしくお願いいたします。

閑歳:
よろしくお願いいたします。

松林:
まず、会計簿サービスのZaimについて紹介をお願いします。

閑歳:
家計簿というと入力が大変なイメージがありますが、入力は簡単にできるようになっています。例えば、レシート入力というのがあり、レシートをカメラで撮影すると、レシートの内容を自動的に認識して入力が完了します。

また、今、自分がどれぐらい使っているかが分かり、財布や銀行口座にいくら入っているかも分かります。これらは、グラフなどで推移も見られるようになっています。現在、1500ぐらいの銀行やカード会社と提携しており、提携先の銀行・カードなら口座の情報が自動でZaimに入るようになっています。

こちらのサービスは、広告をほぼ打たずに広まってきた国内最大級のサービスとなっています。利用者と開発者が一緒にサービスを改善してきたところがその原動力となっています。利用者の方からの問い合わせに対して、サポートで全て答えるようにしています。

そして、その中の要望は、利用者の方と一緒になって考えてサービスを改善しています。また、開発ができる個人の方と一緒にサービスを展開しており、自分達だけでなく利用者の方や外部の開発者の方と一緒にサービスを改善していっているところが大きな特徴です。

2.自分で対価を払ってエンジニアからプログラミングを学ぶ

松林:
閑歳さんは、プログラマーとして専門の教育を受けずに独学でプログラミングをマスターしています。プログラミングに触れられたのはどういうきっかけがあったのでしょうか。

閑歳:
はじめて触れたのは高校生のころです。プログラミングができるとゲームが作れるということを聞いてやってみたいと思いました。そして、お年玉をためてパソコンを買ってプログラミングを始めましたが、世界観が分からず、どこまで勉強したらどうなるか理解できず、すぐに挫折しました。

当時、プログラミングのことが話せる仲間がいれば挫折しなかったと思いますが、そういう話ができる友達がいませんでした。

大学進学後、少しプログラミングをやっていたのですが、卒業して就職した後は全くしなくなりました。26歳でインターネット業界に転職した時、周りにエンジニアがたくさんいたので、そこから少しずつ学ぶようになりました。ただ、エンジニアと私では知識差がすごくあるので、エンジニアに教えてもらうにしても私の方から価値を返せないことが悩みの種でした。

ただ、エンジニアと接しているうちに、エンジニアはプログラミングほどドキュメントを書くことが好きではない、ということに気がつきました。そして、自分がドキュメントを書くのでプログラミングを教えてください、とエンジニアと交渉をして教えてもらいました。

そうして学んでいるうちに、今まで部分しか理解できていなかったものがつながり、世界観が分かるようになってきました。「こう作っていくと、こういうサービスができる」と自分の中で理解できた時は、とても楽しくなりました。

3.コンピュテーショナル・シンキングでアイディアを形にする

松林:今回のテーマとなっているプログラミング的思考は、元々は、コンピュテーショナル・シンキングと呼ばれる概念がベースとなっています。以下は、コンピュテーショナル・シンキングとはどういったものかを説明したスライドです。実際にサービスを作る際、コンピュテーショナル・シンキングが役立ったエピソードなどがあれば教えてください。



閑歳:
当時(2010年ごろ)、一般向けに何かサービスを作りたいと思っていて、アイディアのひとつが家計簿で、他のふたつは、QAサイトと匿名サイトでした。当時は、すごく身近な物が時代に即した形の新しいサービスとなって世に出始めていました。

例えば、Evernoteが登場して新しい形のメモ帳として注目を集めていました。一方で、匿名サービスやQAサイト、家計簿は新しい形になっていないと思っていて、その中から自分が作りたいのはどれかということを考えていました。最終的に、自分に一番親しみがあったのが家計簿なので、時代に即した家計簿を作ろうと決めました。家計簿を作ろうと決めた時のアイディア出しの時に、結構こういう思考を使っていました。

今、改めて考えてみると、優秀なエンジニアは、この思考が全部できているという印象です。優秀なエンジニアが何を得意としているかを分析すると、このような思考になると思います。ただ、この思考を身につけるためにプログラミングをするというのではなく、プログラミングをやっていると、結果的にこのような思考が身に付いてくると考えた方がいいかもしれません。

松林:
そうですね。いきなり、コンピュテーショナル・シンキングを教えるのではなく、プログラミングを通して最終的に理解してもらえればいいということを教える側が念頭に置く必要があると思います。さらにそういった観点でカリキュラムを設計する必要がありますね。

閑歳:
プログラミング自体すごく楽しいので、勉強のためではなく楽しんでやってほしいと思います。また、技術が変わっていくスピードが速いので、もしかしたら、誰も作ったことがなく、世界中の人が使うサービスを作れるかもしれないというチャンスは年齢関係なく誰にでもあります。

松林:
そうですね。高齢の方でプログラミングにチャレンジしている人もいます。例えば、イノシシを捕まえる柵を自動で制御するシステムをプログラミングしている70歳代の男性の方がいます。また、世の中に出回っているアプリが若者向けばかりなので、自分や自分達と同年代の方が夢中になれるアプリを作りたいという動機で、実際にアプリを作った80歳代の女性の方もいます。

閑歳:
アプリが作れると、アプリを通して社会とつながれるので、とてもいいことですね。

4.ビジネスパーソンがプログラミングを学んで身につけるメリット

松林:
アプリを作れることは、大人がプログラミングを学ぶメリットだと思いますが、他にもメリットは色々あると思います。そのメリットをまとめたのが以下の図になります。



例えば、「業務効率化について、より具体的に考えられるようになる」とあります。これは、「毎日仕事でやっていることをプログラミングで自動化できないか?」と考えられるようになるということです。閑歳さんは、プログラミングを学んだことで、どのようなメリットを感じましたか?

閑歳:
まとめていただいた四つのメリットは、確かにそうだと思います。業務効率化もそうですが、エンジニアとのコミュニケーションが円滑になるというのはとても実感します。エンジニアとコミュニケーションを取る場合、エンジニアならではのコミュニケーションの仕方があります。その特徴を理解しておくと、話が早く進みます。

エンジニアは言われた物を作ることに興味があると思われがちですが、実はそうではなく、一緒に作りたいという気持ちを持っています。プログラミングを通して楽しさを理解し、エンジニアの特性まで理解できると、コミュニケーションは見違えるほど円滑に取れるようになります。

松林:
なるほど。エンジニアでない方がエンジニアの気持ちに寄り添えるということですね。私もエンジニアでない方から同じような話を伺ったことがあります。その時、「逆にエンジニアが、エンジニアでない人がどういうことを考えているか理解することも大事」という話をしていたことがとても印象に残っています。

閑歳:
それは、おっしゃるとおりだと思います。弊社でも社員に対して、相互理解をして、お互いに尊敬し合う文化にしたい、という話はよくしています。また、エンジニアも、どういうことで給料が払われているのか、きちんと会社の運営がされているのか、そして、その背景に会社として必要な機能があり、ビジネスとして成り立っている、という話は、すごく共有するようにしています。

松林:
それは、閑歳さんが非エンジニアから独学でエンジニアになって、そして会社を経営される立場になったというキャリアで、全ての立場でいろいろと経験されているからこそだと思います。

閑歳:
そうですね。私も経営者として初めのころはビジネスサイドの知識がありませんでした。色々と経験して分かった部分が多く、当時エンジニアだった自分に言ってもなかなか理解できなかったと思います。そういう経験があるから、なるべくエンジニアが興味を持つような形で、繰り返して伝えるようにしています。

5.これからプログラミングを学ぶ方へのメッセージ

松林:
それでは、最後にこれからプログラミングを学ぶ方にメッセージをお願いします。

閑歳:
おそらく小学生ぐらいのお子さんだと、Minecraftをやっているお子さんがすごく多いと思います。それをきっかけとして、プログラミングをやってみようとか、世の中にたくさん溢れているゲームに触れて、自分でもゲームを作ってみようと考えるお子さんは多いと思います。そうやって何か夢中になれるものがあるのは大変貴重だと思います。

私自身、ゲームが好きで、何かを攻略したり、少しずつ自分が成長していくというのがとても楽しかったです。そこを突き詰めていって、今は、プログラムを書いたり、サービスを作ることにつながっています。何十年という人生の中で、自分が夢中になって集中できるものは大変貴重だと思うので、それをすごく大事にしてほしいと思います。また、長く続けてやってほしいです。

一方、大人の方は、仕事で解決したい問題を解決するためにプログラミングを学んでいただければと思います。こういうことに困っているという問題を見つけたら、後の解決する場面でプログラミングは非常に役立ちます。解決のために自分でも手を動かせるというのはとても楽しいと思います。

松林:
エンジニアはプログラムを書くのに長けているかもしれませんが、必ずしも、良いアイディアを持っているわけではありませんよね。むしろ、エンジニアでない方が、色々とアイディアを持っているのではないかと思います。アイディアを持っているだけでなく、実際に形にできる道具があると、誰だってすごい物を作り出せる可能性がある、ということを今回の対談で実感しました。

今回は、プログラミング的思考というテーマでしたが、閑歳さんに大変興味深いお話を伺いました。プログラミング的思考はエンジニアが常に考えていることですが、その思考をエンジニアでない方が身につけると、自分達のアイディアをすぐに形にできるようになります。それは、これからの時代を生き抜く大きな力になるのではないかと思います。

閑歳さん、本日は、ありがとうございました。

閑歳:ありがとうございました。


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松林 弘治(まつばやし こうじ)
リズマニング代表
1970年生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程中退。龍谷大学理工学部助手、レッドハットを経て、ヴァインカーブにてコンサルティング、カスタムシステムの開発・構築、オープンソースに関する研究開発、書籍・原稿の執筆などを行う。2014年からフリー。Vine Linuxの開発団体Project Vine 副代表(2001年~)。ボランティアで写真アプリ「インスタグラム」の日本語化に貢献。

  • <著書>
  • 『プログラミングは最強のビジネススキルである』(KADOKAWA)
  • 『子どもを億万長者にしたければプログラミングの基礎を教えなさい』(KADOKAWA/メディアファクトリー)
  • 『パソコンがなくてもわかる はじめてのプログラミング〈1〉プログラミングって何だろう?』(汐文社、共著)他

閑歳 孝子(かんさい たかこ)
株式会社Zaim 代表取締役
慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、日経BPでIT専門誌の記者・編集に従事。ITベンチャーに転職後、独学でプログラミングを学ぶ。2008年にユーザーローカルの立ち上げに参画し、アクセス解析ツールの企画・開発を手がける。
2011年7月に個人向け家計サービス「Zaim」をリリース。本業とは別の趣味として運用するものの、ユーザー拡大を受け2012年9月に法人化、代表取締役に就任。