講師:朝比奈 一郎(青山社中株式会社 筆頭代表(CEO))
ゲスト:牛山隆信氏(ENGAWA株式会社 代表取締役社長)
編集/構成:mbaSwitch編集部
国や社会について考え、変革に向けたアクションを取る人を社会変革型リーダーと呼びます。
国や社会について考え、変革に向けたアクションを取る人を社会変革型リーダーと呼びます。
社会変革型リーダーがいかに大きな構想力を描き、それを実現しているのかをお伝えする本シリーズ、「社会変革型リーダーの構想力」。
今回は、日本企業・自治体がグローバルに対応するためのコミュニケーションサービスや、日本の価値あるものを世界の人々に伝える外国人目線でのマーケティングクリエイティブサービスをワンストップで提供するENGAWA株式会社代表取締役社長の牛山隆信氏をお迎えし、原点の構想力をお伺いします。
朝比奈:牛山社長は、美大ご出身ですが、どのようなきっかけで武蔵野美術大学に入ろうと思ったのでしょうか?
牛山:大学に行く前に1年間浪人を経験するのですが、その時に改めて自分がどういう道に行きたいのかということを考えました。世の中には、頭のいい人や勉強のできる人はたくさんいますが、デザインや美術は唯一無二のもので、自分も好きだったので価値を出せるのではないかということと、表現ができる人間になりたいと強く思いました。そして、美術大学を志望して、勉強して入学したという経緯です。
美術大学には、絵が特別に上手な人が想像以上に集まっていて、入学後に衝撃を受けました。私も美術が得意だったのですが、そういうレベルではない天才達がたくさんいました。その中で表現をしていくという事は、当然、大学の中でトップになっていかないと、社会に出てからもトップになれません。実力で勝負する世界の現実を強く感じました。ならば、自分が好きな表現と社会への適合からキャリアを考えてみよう、つまり、自分が表現をする側ではなく、デザイナー達と一緒にプロジェクトを作って、より良い活動の場を提供できるような仕事をする立場のキャリアに進んだ方が良いのではないかと、徐々に考えるようになりました。
ただ、今、改めて考えると、大学の時に学んだデザインのプロセスや、周りの人と協調していくことは、これまでのキャリアや私が仕事をする上で軸にしていることそのもので、非常に役立っていると思います。
牛山:美術大学の卒業後に入社した会社ではウェブ制作に従事しました。当時、スマホがまだ出る手前で、携帯の有料サービス企画や、IoTが言われ始めた時代でもあったので、新規ウェブサービスの企画に従事していました。ただ、デジタル一辺倒ではなく、表現をしていくという側面から、色々なイベントやマスメディアに対する自分の引き出しを増やしていくことも大切ではないかと感じて、より、総合的な施策ができるPR会社を選んで転職しました。
朝比奈:転職先のサニーサイドアップでは具体的にどんなことをされてきたのでしょうか?
牛山:色々なプロジェクトを経験させていただきましたが、その中でも印象に残っているものがいくつかあります。
まずは、「FIFAワールドカップトロフィーツアー日本開催プロジェクト」です。
ワールドカップが開催される年に優勝トロフィーが世界各国を回るという、オリンピックの聖火リレーのようなプログラムがあります。当時、コカ・コーラ様がそのスポンサーになっていました。4日間で、トロフィーと大会の熱気を伝え、ブランドに貢献するプロモーションを行っていくプロジェクトでした。プロジェクトの規模がすごく大きく、とても印象的でした。
牛山:次は、「ビジットジャパンキャンペーン」です。
今でこそインバウンドは普通になっていますが、当時はまだ少なく、外国人旅行客の方に日本に来ていただくことを目的として、ウェブサイトを通じたプロモーションをお手伝いさせていただきました。7言語に対応したホームページを運用して、当時、日本では今ほどメジャーではなかったFacebookで、日本の魅力の海外発信を行いました。日本ができることは、まだまだあるのではないかという問題提起や、思いが湧いた取り組みでした。
牛山:また、「OMOTENASHI Selection」も印象に残っています。
これは、日本全国から日本ならではの価値ある商品やサービスを持った方々にエントリーしていただいて、それらを日本人と外国人の審査員で審査を行い、表彰する取り組みです。4年間で464件が認定されています。受賞後は、知ってもらうための広報・PR支援や販路開拓の支援を行っています。当時、東京オリンピック・パラリンピックが決定した時期でしたので、どうすれば日本と海外をつなぐような取り組みができるのかというのを考えていました。
このプロジェクトのきっかけは、地元の同級生で工芸をやっている跡継ぎから、商品を海外に出していく術が分からないという悩みを聞いたことです。それを、全国の同じ思いを持つ方の商品を集めてブランドとして発信できると、日本や海外の人にとって良いプロジェクトになるのではないかと考えました。
朝比奈:ここからは、牛山社長の今のチャレンジにつながる動機や原動力について、お話を伺っていきたいと思います。
リーダーには色々なタイプがありますが、これまでを振り返って、牛山社長はどのようなタイプのリーダーでしたか?
牛山:学級委員長や野球部のキャプテンなど、リーダーと呼ばれるような立場を子供のころからやっていましたが、自分が上に立ってみんなを引っ張っていくということは全然思っていませんでした。しかし、なかなか人ができない経験をしたいという思いはありました。学級委員長もキャプテンも一人しかできませんので、やれるチャンスがあれば挑戦をして、それ自体を楽しむ、という気持ちがすごく強いのだと思います。
朝比奈:やれるチャンスがあれば挑戦して楽しむというのは、簡単にはできないことだと思いますが、そういう考え方が身に付いたのは、挑戦を後押しするようなご家庭だったのでしょうか?
牛山:父と母から、自分ができないことにチャレンジし、それを日々やり、それが大小関係なく少しずつ取り組んでいく生き方は成長につながる、ということを教えられました。私自身も、そういった生き方をニュートラルに楽しんでいました。
朝比奈:先ほどの「OMOTENASHI Selection」は、海外がキーワードになっていますが、海外と日本を意識する最初のきっかけは何だったのでしょうか?
牛山:初めて日本と海外を「自分ごと」として意識したのは、大学を卒業するタイミングでイギリスへの留学を考えていて、ロンドンの美術学校に一週間程度行った時です。正直、軽い気持ちで行ったのですが、私とほぼ年齢が近い方々と接して、作品のクオリティーはもちろん、作品を作っている時のオーラが全然違いました。私も学校で頑張って勉強していたつもりでしたが、勉強の域を出ていないことを痛感しました。ロンドンの学生は、勉強ではなく、自分の生業としてやっていることに衝撃を受けて、これから日本と世界で仕事ができるチャンスがあるかもしれない、と思ったのが最初のきっかけです。
牛山:今は、外国の方で日本に興味を持ってくれている方が多くいますが、まだまだ伝わっていない日本の魅力や価値というものがたくさんあります。これをマッチングして伝えていくことが日本を豊かにすることであり、外国の人にとっての体験や日常を豊かにすることにつながると考えています。
朝比奈:なるほど。これまでも「OMOTENASHI Selection」という事業もやられていますが、この名前は面白いですね。
名付けの由来はどこからきているのでしょうか?
牛山:名前に関しては二つの視点があります。まずひとつ目は外国の方に伝わるかどうかということ、もうひとつは、応募される地域の方々が応募したいと思うかどうか、ということです。そして、どちらを優先するかを考えた時、まず、はじめに日本の方が参加してくれるような誇らしい概念でないといけないと考えました。また、「おもてなし(OMOTENASHI)」という言葉は、外国の方に認知が広がりつつありますが、まだ、分かる人は少ないと思います。そこで、本質的な意味を伝えるよりは、まずは、このマークが付いているものは良いものだということを伝えるようにしました。
朝比奈:ちなみに、社名の「ENGAWA」は「縁側」が由来となっているのでしょうか?
牛山:そうですね。日本の家屋にある縁側が由来です。
「ENGAWA」は、「場」作りをする会社だと考えています。日本と海外をつなぐ立ち位置の場所でありたいと考えています。実は、縁側は日本にしかない概念で、海外にはベランダやテラスはありますが、日本家屋の縁側は内側でも外側でもありません。縁側は外の人が勝手に入ってきて話をしていい場所で、家の中でも外でもない場所です。縁側の持っている価値が日本的であり、それが日本と世界をつなぐ上で必要な概念ではないかと考えて、社名を「ENGAWA」にしました。
朝比奈:牛山社長は経営者として、色々な外国の方をまとめていらっしゃいますが、リーダーとして工夫されていることはありますか?
牛山:より本質的なゴールをお互いに共有することはすごく重要だと考えています。外国のメンバーの方は、目的やゴール意識が高いので、そこを最初に共有してからプロセスを設計して話すことを意識しています。ただ、ゴールを共有してスタートしても、たくさんのハードルが存在していて、だいたい苦労します。その時にやりきれるかどうか、最終的には日本人か外国人かは関係なく「人」次第ですね。人は誰でも結果が出なければ落ち込みますし、そこを一緒に乗り越えられるようなコミュニケーションを工夫しています。
朝比奈:なるほど。牛山社長にとって、構想力とは何でしょうか?
牛山:構想力とは、本気で未来を表現するエンジニアリングだと思います。
構想しただけでは意味がなく、実行して実現しないと価値がありません。また、構想する人間は、理想の未来を現すビジョンを本気で表現しないといけないと考えています。感性的な未来像に加えて、エンジニアリングの側面から、どういう機能を組み合わせてどう実現していくのかということを、ロジカルに積み上げて説明していく、この二つを組み合わせていかないと良い構想にならないと考えています。
朝比奈:なるほど。だから、大きな絵は大事にしつつ、実現という部分を意識していらっしゃるんですね。
本日は、ありがとうございました。
講師:朝比奈 一郎(あさひな いちろう)
青山社中株式会社 筆頭代表(CEO)
1973年東京都生まれ。東京大学法学部卒業。ハーバード大行政大学院修了(修士)。
経済産業省でエネルギー政策、インフラ輸出政策などを担当。アジア等の新興国へのインフラ・システム輸出では省内で中心的役割を果たす。小泉内閣では内閣官房に出向。特殊法人・独立行政法人改革に携わる。
外務省「世界の中の日本:30人委員会」委員。(2006年)
「プロジェクトK(新しい霞ヶ関を創る若手の会)」前(初代)代表。
ゲスト:牛山 隆信(うしやま たかのぶ)
ENGAWA代表取締役社長
武蔵野美術大学デザイン情報学科を卒業後、株式会社シンクでWEBサービスの企画制作・コンサルティング業務を経て、株式会社サニーサイドアップで新規事業開発を担当するムーブメントパーティ戦略本部の本部長を務める。優れた日本商品・サービスを表彰するアワードOMOTENASHI Selectionを立ち上げ、英字メディアTokyo Weekenderを運営するBC Media代表取締役に就任し、2015年にENGAWA株式会社を設立し代表取締役社長に就任。