今回は「世界の富裕層の移住・流出入動向」を取り上げてご紹介いたします。
近年、日本ではインバウンド(訪日観光客)が伸びています。また、短期的な観光旅行客だけではなく、移住する人も増えてきています。特に、海外富裕層の移住への期待が高まっています。世界的にみると、富裕層の移住は、以前からありましたが、新型コロナの影響で、一旦停滞したものの、収束移行は再び活発化しているようです。
それでは、世界的にみると、富裕層の移住者数は、1年間でどのくらいの規模で、どのように推移しているのでしょうか。また、富裕層の純流入数が最も多い国はどこで、どのくらいの規模なのでしょうか。富裕層の純流出が最も多い国はどこで、どのくらいの規模で週出しているのでしょうか。
実際に数字を見て確認したいと思います。
まず、投資・移住助言などを得意とする英コンサルティング会社、ヘンリー・アンド・パートナーズの調査結果から、世界の富裕層(※)の移住数の推移を見てみます。(※、富裕層=投資可能な流動資産を少なくとも100万ドル保有)
世界の富裕層の移住は、計測が始まった2013年は5.1万人でした。以降、増加トレンドとなり、2019年は11万人に達しています。
2020年は、新型コロナの影響により、大幅場に落ち込み、1.2人となっています。ただし、この落ち込みは、新型コロナの影響で移住が減ったことに加え、追跡調査しきれなかったことも影響しているそうです。2021年は少し回復し、2.5万人となり、2022年には8.4万人と、回復度合いが高まっています。
2023年には12万人と、新型コロナの影響前の2019年を上回る水準に達しています。以降増加トレンドとなる見通しで、2025年には13.5万人になると予測されています。
次に、富裕層の純流入が多い国を見てみます。富裕層の純流入(2024年)が最も多かったのはUAE(アラブ首長国連邦)で、6700人となっています。次いで多かったのが米国で、3800人となっています。以降、シンガポール(3500人)、カナダ(3200人)、オーストラリア(2500人)、イタリア(2200)人と続きます。日本は、富裕層の純流入が多い国の10位にランクインしており、400人の純流入となっています。
次に、富裕層の純流出が多い国を見てみます。富裕層の純流出(2024年)が最も多かったのは、中国で1万5200人の純りゅうしゆつとなっています。次いで純流出が多かったのは、イギリス(UK)で、9500人の純流出となっています。
以降、富裕層の純流出が多かった国順で、インド(-4300人)、韓国(-1200人)、ロシア(-1000人)、ブラジル(-800人)と続きます。
こうしてみると、世界の富裕層の移住は、新型コロナの影響以前から増加トレンドにあり、10万人台の規模でしたが、コロナの影響で大幅に落ち込んだものの、新型コロナ収束移行は急速に回復していることが分かります。さらに、今後も伸びる見通しとなっていることが分かります。
また、富裕層の流入が多い国は、富裕層に対する税制(相続税、キャピタルゲイン課税)などが優遇されているほか、気候、自然環境、医療・教育などの生活水準が高い国が上位となる傾向があります。
一方、富裕層の流出が多い国でみると、中国では国内経済状況(特に不動産市況)の影響が大きくなっているといえます。イギリスの場合は、ブレグジット(EU離脱)の影響が響いており、富裕層に逆風の税制改正や左派の労働党政権への政権交代が確実視される中で不透明感を嫌気しているようです。
日本の場合は、他の富裕層純流入上位国と比較すると、富裕層に対する優遇が少ないものといえそうです。もし、海外からの富裕層の移住を促すのであれば、何らかの富裕層優遇措置があると、富裕層移住の後押しになるといえそうですね。
資料:
Henley & Partners ”The Henley Private Wealth Migration Report 2024”