大手計量機器メーカーの株式会社イシダに約30年勤めたのち、2020年12月より子会社である新光電子株式会社の社長に就任した坂本慎介さん。開発の実務経験を経てマネジメントを担う立場となった時に力不足を感じ、自分を支える柱となる考え方を身につけたいと、BBT大学院でMBAを学ぶことを決めました。坂本さんがマネジメントにおいて感じた苦悩、そしてご自身なりのマネジメント術を体得するまでのエピソードをうかがいました。

修了生プロフィール

坂本 慎介(さかもと しんすけ)さん
2008年4月ビジネス・ブレークスルー大学院(以下、BBT大学院)入学、2010年3月修了。入学時40歳、インタビュー時は52歳。新光電子株式会社代表取締役社長を務める(2021年6月現在)。

課長職に就いて力不足を痛感。自己の“脱皮”を目指しMBAの取得を決意

――はじめに、現在のお仕事について教えてください。

株式会社イシダ(以下、イシダ)という計量機器メーカーの子会社である新光電子株式会社(以下、新光電子)で社長をしています。電子天びんや物流計測器といった計量計測機器の製造・販売をしている会社で、2020年12月に社長に就任しました。

――坂本さんがBBT大学院で学ぼうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

高専卒業後にイシダに入社してから約20年、製品開発の実務を担当していました。2007年に課長になってからは開発チームのマネジメントをするようになりましたが、実際に開発をするのと、人を動かしたり他の部署と交渉したりしながら、より競争力の高い製品をつくる難しさを感じました。1年やってみて「これはアカンな」と思ったんですよね。

それまでの経験則で直感的に良し悪しがわかっても、なぜそれが良いのか悪いのかを説得力をもって説明することができず、なかなかうまくいきませんでした。社内外の人と交渉するなかで、自分の柱となる考え方が必要だと痛感したんです。

当時、イシダの社内で何人かMBAを取った人がいて、自分もやってみようかなと思ったのがきっかけです。ずっと関西に住んでいたので、関西の大学のMBAも検討しましたが、人とは違うところで勉強してみたい気持ちもあり、いろいろ調べている時にBBT大学院を見つけました。

――課長になられた時は、何人くらいの部下がいらっしゃったのでしょうか?

20人くらいです。商品開発のなかで、電気関係の設計をするチームが2つとソフトを設計するチームがあって、3つのチームを見ていました。

その前に係長だった時にも部下はいたのですが、課全体となるとそれよりも大きな組織です。製品開発をしているとクレームを受けることがあって、その時にどんな対応をするかが難しかったんです。チームのことだけではなく、会社のことも考える必要があって、もっと広い視野がいるなと。

課長になってから1年くらいは、なんとなくモヤモヤしていて、“脱皮”しなければいけないと感じるようになりました。

――課長としてどのようなご苦労がありましたか?

開発の現場では、いろいろな問題が日々起きています。当時台湾のメーカーとの共同プロジェクトに取り組んでいたのですが、やはり日本人と考え方が違うことがあります。一生懸命やってはくれるものの、どうしても日本の常識が通用しない…。何回も現地に行きましたし、お互いに腹を割って話したのですが、うまくいかなかったんです。

自分たちが日本でやってきた経験から「これが当たり前だろう」と思うことが、向こうでは当たり前ではなかったり、グローバルスタンダードがわからず交渉に苦労してクレームになったりすることがありました。

いくら製品をつくっても、売れなければ意味がありません。広い視野を持ってものごとを考えなければならないのに、そういう時に自分の軸がブレていました。長く開発をやってきたからこそ現場の主張もわかるし、会社として進むべき方向もわかってきたなかで、時と場合によって発言がブレてしまうこともあったんです。

――上司と部下との間で板挟みになるうえに結果も求められて、大変な立場ですよね。

正しいことを言ったからといって通るとは限らなくて、どうしても意見が合わないことがあります。若い時はそれがわからず、上司に反発したことも…。

今考えると、組織の論理を理解しつつ、上司に納得してもらえる方向にもっていく努力が必要だったと思います。でもそれができなかったのは、自分の力不足でした。人それぞれに正義があるなかで、自分の柱となる考え方をもとに判断してうまく調整しないと意思決定ができません。そういう部分は特に大変でしたね。

「RTOCS」は気づきの宝庫。経営の擬似体験で鍛えた思考力が、実際に社長になってからも役立った

――BBT大学院でMBAを学んでみていかがでしたか?

きちんと数字を拾って、データに基づいて考える訓練ができたことがよかったですね。論理的かつ合理的な判断をするのが自分なりの柱のひとつだと思っていて、BBT大学院ではそのための力を身につけられたと思います。ものごとの考え方の軸を立てる時に論理性はとても大事で、数字があると説得力が増しますから。

――講義のなかで特に印象的だったものは何でしたか?

やはり「RTOCS(※1)」です。自分が社長になったつもりで、さまざまな課題に対して短期間で戦略を考えなければならないのはしんどかったですが、有意義な経験ができました。

みんなでいろいろな情報を出し合って、「今起こっているのはこういうことだよね」という課題感は共有できるのですが、そこからどういう手を打つかはまさに十人十色で、もはやアート(笑)。セオリー通りに考えたらみんな同じ答えになってもいいはずなのに、そうはならないんですよね。そういう部分がおもしろかったですし、大前学長の解説を聴くと「その考えは出てこなかった」という発見が毎週ありました。

今は実際に社長をやっていますが、社員に対して「目的を考えよう」と言うのも、「RTOCS」を通して繰り返し考える訓練をしたからです。きれいな打ち手を出せるかどうかは別として、論理的かつ合理的に考えたうえで、誰も思いつかないようなアイデアを出したいですね。

人と違うことをして競合を出し抜かないと、会社として成長できません。最終的にどんな手段を選ぶかは経営者にかかっている部分なので、BBT大学院でそういう経験が積めたのはよかったと思います。

――「RTOCS」では、大前学長の答えや周りのクラスメイトの考え方にふれることで、経営者に必要なセンスが磨かれていきますよね。坂本さんはどのような経緯で新光電子の社長に就任されたのでしょうか?

新光電子から、次世代製品の開発舵取りが出来る人材を送って欲しいとの要請があり、これまでの経験を買ってもらえたのか私に声がかかりました。直前はイシダで開発部門の部長をしていて約150人の部下がいましたが、新光電子は社員が約120人なので、人数的には同じくらいです。

ただ、それまで開発にかかわることだけだったのが、営業も生産も、管理も見なければならなくなりました。私は営業の経験があるわけではないし、工場にいたことはあるものの生産にかかわったこともなかったので、それぞれの現場とどのようにコミュニケーションを取っていくかを考えながら取り組むのはおもしろいですし、やりがいがありますね。

※編集註:
(※1)「RTOCS(アールトックス)」は「Real Time Online Case Study」の略称で、BBT独自のケースメソッドです。答えの出ていない「現在進行形の企業課題」をケースとして扱い、当該企業に関する調査・分析・戦略考案を自ら実施します。大前研一学長の戦略系科目において、2年間毎週1題=合計約100題 を繰り返し行います。

何をやってもうまくいかない…暗黒期を経てつかんだ、自分なりの組織マネジメント術

――MBA取得後、仕事をするうえでの変化はありましたか?

2010年にMBAを取った後、2012年にイシダの開発部門で部長代理になりました。この頃を思い出すと、MBAを取って調子に乗っていたのかも知れませんね。自分なら何かが出来ると思い上がっていました。

部長代理になって数ヶ月、それまで積み上がってきた歪みが一気に出てきて、毎日クレームが起こるような状況が続きました。「なんとかしなければ」「自分がやらなければ」と思って必死に動けば動くほどうまくいかなくなってしまいました。そのうちに自分のキャパシティを超えてしまって、本来やらなければならないこともできない…。そんなひどい状況が1年以上続いたんです。

立ち直るきっかけは、ヨーロッパに出していた機械にトラブルが起こり、急きょ現地に行くことになった時のことでした。2週間ほど席を空けたのですが、私がいないことによって、部下が自分たちで考えて動いてくれるようになったんです。

それまで私が細かく指示を出すことが多かったのですが、大まかな方針を伝えて、あとは各自に責任を持たせるようにしたところ、みずから動いてくれるようになりました。だから、部下のことを信用していなかった自分が悪かったんだなと気づきましたね。

それがきっかけで、組織をまわすうえでの自分なりのやり方ができてきて、チームの調子も上がり続けていきました。自分が知らないことは得意な人にどんどん任せていくスタイルが、その時にできたんです。

そのあと別の開発の部署に異動したのですが、経験がある人をうまく引っ張り上げながら責任を持たせてやらせるようにしたら結果が出てきて、私にとってひとつの成功体験になりました。陣頭指揮をとるようなスタイルだと変な方向に進んでしまう時があるので、今もそういう感じでマネジメントをしています。

――現在は経営者として奮闘されるなかで、BBT大学院で学んだことが役に立っている場面はありますか?

大前学長をはじめ、BBT大学院の先生方は人格者ばかりで、講義では彼らの失敗談を語ってくれることがありました。ささいなエピソードの数々が頭の片隅に残っていて、今も時々思い出します。特に、何か起こった時は焦らず落ち着くこと、そしてすぐに手を打つことは肝に銘じていますし、社員にもよく話します。

BBT大学院時代のクラスメイトとの出会いも、私にとっては財産になりました。同期とは今でも仲がいいですよ。自分で会社を経営している仲間もいますし、「この分野のことなら、あの人に相談したら助けてくれそうだな」と頼れる仲間もいます。自分のそれまでの行動範囲のなかでは得られなかったような知識をもった仲間とのつながりも、自分にとって引き出しのひとつになっているので、ありがたいなと思います。

MBAは課題解決のための手段。取ってからどう使うかを考えるべし

――最後に、MBAを検討されている方へのアドバイスをお願いします。

MBAを取って、それを“使うこと”そのものが目的になってしまうとダメかなと思います。とはいえ、使わないと意味がないし、最初は「せっかく勉強したのにこのままでいいんだろうか」と焦るんですよね。だから、まずはMBAを問題解決のための手段として“どう使うか”を考えてみてほしいです。

私がMBAを取ったのは40〜41歳の時でした。それまでに社会人として約20年経験を積んで、折に触れていろいろな問題に直面して自分のなかでモヤモヤしていたものが、BBT大学院での学びを通して整理されていく実感がありました。「あれはこういうことだったのか」とか「あの時はこうしたらよかったのか」とか、今までの経験と習ったことがリンクして、はじめて本当の意味での理解につながったと思います。

BBT大学院の同期には自分より若い人もいましたが、若い人は経験が少ない分、習ったことを消化できないことがあるかもしれません。私は約20年の経験があってようやく、教えてもらったり聞いたりしたことを噛み砕くことができたように思います。

「MBAって難しいんでしょう?」とよく言われますが、全然そんなことはありません。MBAを学ぶことは自分の体験を整理することで、新たに身につけた知識を自分の引き出しに入れていくような感覚です。特にBBT大学院は、ただ単に知識を詰め込んだり、フレームワークだけを一生懸命教えたりするような学校ではないですから。これからMBAを取ろうと考えている人には、ハードルを上げすぎずに捉えてみてほしいですね。

大手計量機器メーカーの株式会社イシダに約30年勤めたのち、2020年12月より子会社である新光電子株式会社の社長に就任した坂本慎介さん。開発の実務経験を経てマネジメントを担う立場となった時に力不足を感じ、自分を支える柱となる考え方を身につけたいと、BBT大学院でMBAを学ぶことを決めました。坂本さんがマネジメントにおいて感じた苦悩、そしてご自身なりのマネジメント術を体得するまでのエピソードをうかがいました。

修了生プロフィール

坂本 慎介(さかもと しんすけ)さん
2008年4月ビジネス・ブレークスルー大学院(以下、BBT大学院)入学、2010年3月修了。入学時40歳、インタビュー時は52歳。新光電子株式会社代表取締役社長を務める(2021年6月現在)。

課長職に就いて力不足を痛感。自己の“脱皮”を目指しMBAの取得を決意

――はじめに、現在のお仕事について教えてください。

株式会社イシダ(以下、イシダ)という計量機器メーカーの子会社である新光電子株式会社(以下、新光電子)で社長をしています。電子天びんや物流計測器といった計量計測機器の製造・販売をしている会社で、2020年12月に社長に就任しました。

――坂本さんがBBT大学院で学ぼうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

高専卒業後にイシダに入社してから約20年、製品開発の実務を担当していました。2007年に課長になってからは開発チームのマネジメントをするようになりましたが、実際に開発をするのと、人を動かしたり他の部署と交渉したりしながら、より競争力の高い製品をつくる難しさを感じました。1年やってみて「これはアカンな」と思ったんですよね。

それまでの経験則で直感的に良し悪しがわかっても、なぜそれが良いのか悪いのかを説得力をもって説明することができず、なかなかうまくいきませんでした。社内外の人と交渉するなかで、自分の柱となる考え方が必要だと痛感したんです。

当時、イシダの社内で何人かMBAを取った人がいて、自分もやってみようかなと思ったのがきっかけです。ずっと関西に住んでいたので、関西の大学のMBAも検討しましたが、人とは違うところで勉強してみたい気持ちもあり、いろいろ調べている時にBBT大学院を見つけました。

――課長になられた時は、何人くらいの部下がいらっしゃったのでしょうか?

20人くらいです。商品開発のなかで、電気関係の設計をするチームが2つとソフトを設計するチームがあって、3つのチームを見ていました。

その前に係長だった時にも部下はいたのですが、課全体となるとそれよりも大きな組織です。製品開発をしているとクレームを受けることがあって、その時にどんな対応をするかが難しかったんです。チームのことだけではなく、会社のことも考える必要があって、もっと広い視野がいるなと。

課長になってから1年くらいは、なんとなくモヤモヤしていて、“脱皮”しなければいけないと感じるようになりました。

――課長としてどのようなご苦労がありましたか?

開発の現場では、いろいろな問題が日々起きています。当時台湾のメーカーとの共同プロジェクトに取り組んでいたのですが、やはり日本人と考え方が違うことがあります。一生懸命やってはくれるものの、どうしても日本の常識が通用しない…。何回も現地に行きましたし、お互いに腹を割って話したのですが、うまくいかなかったんです。

自分たちが日本でやってきた経験から「これが当たり前だろう」と思うことが、向こうでは当たり前ではなかったり、グローバルスタンダードがわからず交渉に苦労してクレームになったりすることがありました。

いくら製品をつくっても、売れなければ意味がありません。広い視野を持ってものごとを考えなければならないのに、そういう時に自分の軸がブレていました。長く開発をやってきたからこそ現場の主張もわかるし、会社として進むべき方向もわかってきたなかで、時と場合によって発言がブレてしまうこともあったんです。

――上司と部下との間で板挟みになるうえに結果も求められて、大変な立場ですよね。

正しいことを言ったからといって通るとは限らなくて、どうしても意見が合わないことがあります。若い時はそれがわからず、上司に反発したことも…。

今考えると、組織の論理を理解しつつ、上司に納得してもらえる方向にもっていく努力が必要だったと思います。でもそれができなかったのは、自分の力不足でした。人それぞれに正義があるなかで、自分の柱となる考え方をもとに判断してうまく調整しないと意思決定ができません。そういう部分は特に大変でしたね。

「RTOCS」は気づきの宝庫。経営の擬似体験で鍛えた思考力が、実際に社長になってからも役立った

――BBT大学院でMBAを学んでみていかがでしたか?

きちんと数字を拾って、データに基づいて考える訓練ができたことがよかったですね。論理的かつ合理的な判断をするのが自分なりの柱のひとつだと思っていて、BBT大学院ではそのための力を身につけられたと思います。ものごとの考え方の軸を立てる時に論理性はとても大事で、数字があると説得力が増しますから。

――講義のなかで特に印象的だったものは何でしたか?

やはり「RTOCS(※1)」です。自分が社長になったつもりで、さまざまな課題に対して短期間で戦略を考えなければならないのはしんどかったですが、有意義な経験ができました。

みんなでいろいろな情報を出し合って、「今起こっているのはこういうことだよね」という課題感は共有できるのですが、そこからどういう手を打つかはまさに十人十色で、もはやアート(笑)。セオリー通りに考えたらみんな同じ答えになってもいいはずなのに、そうはならないんですよね。そういう部分がおもしろかったですし、大前学長の解説を聴くと「その考えは出てこなかった」という発見が毎週ありました。

今は実際に社長をやっていますが、社員に対して「目的を考えよう」と言うのも、「RTOCS」を通して繰り返し考える訓練をしたからです。きれいな打ち手を出せるかどうかは別として、論理的かつ合理的に考えたうえで、誰も思いつかないようなアイデアを出したいですね。

人と違うことをして競合を出し抜かないと、会社として成長できません。最終的にどんな手段を選ぶかは経営者にかかっている部分なので、BBT大学院でそういう経験が積めたのはよかったと思います。

――「RTOCS」では、大前学長の答えや周りのクラスメイトの考え方にふれることで、経営者に必要なセンスが磨かれていきますよね。坂本さんはどのような経緯で新光電子の社長に就任されたのでしょうか?

新光電子から、次世代製品の開発舵取りが出来る人材を送って欲しいとの要請があり、これまでの経験を買ってもらえたのか私に声がかかりました。直前はイシダで開発部門の部長をしていて約150人の部下がいましたが、新光電子は社員が約120人なので、人数的には同じくらいです。

ただ、それまで開発にかかわることだけだったのが、営業も生産も、管理も見なければならなくなりました。私は営業の経験があるわけではないし、工場にいたことはあるものの生産にかかわったこともなかったので、それぞれの現場とどのようにコミュニケーションを取っていくかを考えながら取り組むのはおもしろいですし、やりがいがありますね。

※編集註:
(※1)「RTOCS(アールトックス)」は「Real Time Online Case Study」の略称で、BBT独自のケースメソッドです。答えの出ていない「現在進行形の企業課題」をケースとして扱い、当該企業に関する調査・分析・戦略考案を自ら実施します。大前研一学長の戦略系科目において、2年間毎週1題=合計約100題 を繰り返し行います。

何をやってもうまくいかない…暗黒期を経てつかんだ、自分なりの組織マネジメント術

――MBA取得後、仕事をするうえでの変化はありましたか?

2010年にMBAを取った後、2012年にイシダの開発部門で部長代理になりました。この頃を思い出すと、MBAを取って調子に乗っていたのかも知れませんね。自分なら何かが出来ると思い上がっていました。

部長代理になって数ヶ月、それまで積み上がってきた歪みが一気に出てきて、毎日クレームが起こるような状況が続きました。「なんとかしなければ」「自分がやらなければ」と思って必死に動けば動くほどうまくいかなくなってしまいました。そのうちに自分のキャパシティを超えてしまって、本来やらなければならないこともできない…。そんなひどい状況が1年以上続いたんです。

立ち直るきっかけは、ヨーロッパに出していた機械にトラブルが起こり、急きょ現地に行くことになった時のことでした。2週間ほど席を空けたのですが、私がいないことによって、部下が自分たちで考えて動いてくれるようになったんです。

それまで私が細かく指示を出すことが多かったのですが、大まかな方針を伝えて、あとは各自に責任を持たせるようにしたところ、みずから動いてくれるようになりました。だから、部下のことを信用していなかった自分が悪かったんだなと気づきましたね。

それがきっかけで、組織をまわすうえでの自分なりのやり方ができてきて、チームの調子も上がり続けていきました。自分が知らないことは得意な人にどんどん任せていくスタイルが、その時にできたんです。

そのあと別の開発の部署に異動したのですが、経験がある人をうまく引っ張り上げながら責任を持たせてやらせるようにしたら結果が出てきて、私にとってひとつの成功体験になりました。陣頭指揮をとるようなスタイルだと変な方向に進んでしまう時があるので、今もそういう感じでマネジメントをしています。

――現在は経営者として奮闘されるなかで、BBT大学院で学んだことが役に立っている場面はありますか?

大前学長をはじめ、BBT大学院の先生方は人格者ばかりで、講義では彼らの失敗談を語ってくれることがありました。ささいなエピソードの数々が頭の片隅に残っていて、今も時々思い出します。特に、何か起こった時は焦らず落ち着くこと、そしてすぐに手を打つことは肝に銘じていますし、社員にもよく話します。

BBT大学院時代のクラスメイトとの出会いも、私にとっては財産になりました。同期とは今でも仲がいいですよ。自分で会社を経営している仲間もいますし、「この分野のことなら、あの人に相談したら助けてくれそうだな」と頼れる仲間もいます。自分のそれまでの行動範囲のなかでは得られなかったような知識をもった仲間とのつながりも、自分にとって引き出しのひとつになっているので、ありがたいなと思います。

MBAは課題解決のための手段。取ってからどう使うかを考えるべし

――最後に、MBAを検討されている方へのアドバイスをお願いします。

MBAを取って、それを“使うこと”そのものが目的になってしまうとダメかなと思います。とはいえ、使わないと意味がないし、最初は「せっかく勉強したのにこのままでいいんだろうか」と焦るんですよね。だから、まずはMBAを問題解決のための手段として“どう使うか”を考えてみてほしいです。

私がMBAを取ったのは40〜41歳の時でした。それまでに社会人として約20年経験を積んで、折に触れていろいろな問題に直面して自分のなかでモヤモヤしていたものが、BBT大学院での学びを通して整理されていく実感がありました。「あれはこういうことだったのか」とか「あの時はこうしたらよかったのか」とか、今までの経験と習ったことがリンクして、はじめて本当の意味での理解につながったと思います。

BBT大学院の同期には自分より若い人もいましたが、若い人は経験が少ない分、習ったことを消化できないことがあるかもしれません。私は約20年の経験があってようやく、教えてもらったり聞いたりしたことを噛み砕くことができたように思います。

「MBAって難しいんでしょう?」とよく言われますが、全然そんなことはありません。MBAを学ぶことは自分の体験を整理することで、新たに身につけた知識を自分の引き出しに入れていくような感覚です。特にBBT大学院は、ただ単に知識を詰め込んだり、フレームワークだけを一生懸命教えたりするような学校ではないですから。これからMBAを取ろうと考えている人には、ハードルを上げすぎずに捉えてみてほしいですね。